2006年11月13日更新
本年5月与党、民主党がそれぞれ、いわゆる憲法改正国民投票法案を国会に提出し、今臨時国会に継続審議となって、現在その審議が始まっている。 いうまでもなく、憲法改正の国民投票は、基本的に、主権者たる国民が、国家に対する制限規範である憲法によってどのような国家及び制度を創るかの基本原理を決定する手続であるから、この手続を定める法律の制定については、格別に慎重かつ十分な国民的議論が必要である。 そこでまず指摘すべきは、国民の意思を正確に反映すべき投票対象の問題である。与党案・民主党案共通に、憲法改正原案の国会による発議は「内容において関連する事項ごとに区分して行う」とされ、国民はその「事項ごと」に賛否を投票することとされるが、「関連する事項」という区分はあいまいであり、国民は正確かつ個別的な意思表示ができないおそれがある。したがって、できる限り個別的な条項ごとに賛否を表明できるものとすべきである。 また、憲法96条は改正の「承認」に「過半数の賛成を必要とする」と規定し、条理上も積極的に憲法を変えることの意思を問うものであることからして、投票の方法は改正に賛成する者だけ○を記入し、それが投票総数の過半数となって初めて、国民の承認があったものとされるべきである。 さらにこの国民投票は、選挙とは性質が基本的に異なるものであって、憲法改正問題に関する国民の情報の収集、意見の表明、説得等の活動は、基本的に制限になじまず、広く自由闊達になされるべきものであるから、国民投票運動に対する規制は可能な限り少なくすべきである。 ところで、与党案・民主党案共通の特徴的な問題点として、憲法改正案の広報に関する事務を行うため国会に広報協議会を置き、その構成員は原則として各会派の議員数の比率によるとされている点がある。もともと国会は改正賛成派が3分の2以上を占めて国民に改正を発議する側の立場にあり、しかもこのような比率で広報機関を構成するならば、その広報に偏りが生じる危険は拭えない。同様に、両案に共通して、政党等によるテレビ・ラジオ・新聞の無料の放送・広告を、その「所属議員数を踏まえて」認めるものとするが、これでは改正賛成論が圧倒的に有利である。憲法のあるべき内容は、正確に情報を伝えられた国民が、賛否を自由かつ自主的に判断すべきものであり、必要なのはそのための公正な環境作りである。そのためには、必要な広報等は国会外に公正中立な機関を創設するなどして行い、また、賛成派・反対派への公的な便宜の供与は平等であるべきである。 その他、投票権者の年齢、最低投票率の設定、国会発議から投票までの期間、国民投票無効訴訟の管轄・提訴期間などの論点についても、そしてまた、今この時期にこのような憲法改正手続法の制定がなぜ必要なのかという基本的な問題点についても絶えず検証しながら、慎重な検討がなされなければならない。 よって当会は、現在提案され審議の対象となっている憲法改正国民投票法案には看過し難い基本的な問題点があることを指摘し、国会及びその関係者に抜本的な再検討を求めるとともに、わが国の基本的な体制を決定づける法律案の重要性にふさわしい徹底した国民的議論がなされるべきことを広く訴えるものである。
2006(平成18)年11月9日 横浜弁護士会 会長 木村 良二
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