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会長声明・決議・意見書(2006年度)

戸籍法改正に関する声明

2006年08月15日更新

現在、法制審議会戸籍法部会において、戸籍法の改正が議論されている。去る7月18日には、戸籍法の見直しに関する要綱中間試案が公表された。この試案によれば、弁護士等が戸籍の謄抄本等の交付請求を職務上行う場合は、受任事件の依頼者の氏名を明らかにするとともに、その依頼者につき、請求の必要性を具体的に記載することを求める案(例えば、「相続人甲から被相続人乙についての遺産分割事件の依頼を受け、相続人を特定するため」、などと記載)を「A1案」、そのうち依頼者名のみは記載しないでよいとする案を「A2案」、これまでと同様に使用目的と提出先を明らかにすればよいとするものを「B案」として示されている。また、交付の要件に該当するか否か判断するために疎明資料の提示を求めることができるとしている。

弁護士は、依頼者の深刻な紛争の解決に従事することを日常業務としている点で、他の士業と性格を異にする。そして、依頼者の氏名や依頼内容は、弁護士の守秘義務の中核をなすものである。戸籍の謄抄本等の取り寄せは日常業務で頻繁に必要となることであり、例えば一つの相続事件の相続人確定のために10通を超える戸籍の謄抄本等が必要となることは珍しくない。こうした場合に、依頼者名、事案の内容を書いて請求することは、依頼者のプライバシーを広範に告げてまわることに等しい。事案の内容を裏付ける疎明資料の提出まで求められるとすればなおさらである。また、事案によっては、迅速かつ密行性をもって収集しなければならない場合もあり、職務遂行上の支障も予想される。ましてや、試案では交付請求書の開示の場合に交付請求書の全部を開示するものとするという案も出されているが、これによれば、事件の相手方から開示請求があった場合、紛争の相手方に依頼者の秘密が一方的に暴露されてしまうことにもなりかねない。

市町村にとっても、戸籍事務を通じて特定個人の紛争にかかわる大量の情報を取得すること自体が個人情報保護の精神に反するし、その取り扱い、保管について市町村に大きな負担を課すことになる。こうした過大な情報収集自体が問題であり、戸籍事務を取り扱う地方公務員に守秘義務があるからといって、正当化できることではない。

今般の戸籍法改正は、個人情報の保護を主眼とするものであるが、依頼者のみならず、交付請求の対象となった戸籍の記載者にとっても、その者に関してどのような内容の紛争が生じているかを戸籍事務担当者に知られることとなり、かえって個人情報保護の趣旨に反する結果になりかねない。

もとより、弁護士が職務上請求の制度を濫用して不正な請求をすることがあってはならず、当会はこれまでも職務上請求用紙の複数頒布の際には理由を明示させるなどの対応をしてきたが、今後一層、会員弁護士に対して不正防止の徹底した処置をとるものであるし、全国の弁護士会も同様の方針である。

弁護士の職務上請求について、依頼者名や事案の内容を具体的に記載させることは、弁護士の職務に支障を生ずるにとどまらず、何よりも、依頼者たる国民の個人情報の保護や権利の実現という観点から認めることはできない。

よって、当会は、上記「A1案」、「A2案」に断固反対するものである。


平成18年8月7日
横浜弁護士会 会長 木村 良二

 
 
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