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会長声明・決議・意見書(2006年度)

教育基本法「改正」法案に反対する会長声明

2006年05月12日更新

  1. 政府は、2006年4月28日、教育基本法「改正」法案を国会に提出した。法案は、「与党教育基本法改正に関する協議会」がまとめた「教育基本法に盛り込むべき項目と内容について」(最終報告)に従ったものであり、政府は、今国会での法案成立に向けて意欲を見せており、まもなく審議入りすると報じられている。
  2. 教育基本法は、帝国憲法から日本国憲法への民主的改革がなされたのと同時に、憲法価値の「理想の実現は根本において教育の力にまつべきもの」(教育基本法前文)として成立したものであり、わが国で憲法の理想を実現するために不可欠の役割を果たしてきた。

    このように、教育基本法は憲法と一体の性質のものであり、その改正は、憲法の理念や基本原理にも影響を与える重要な問題であることからすれば、改正の検討にあたっては、改正の是非をも含めたさまざまな論点について、国民のあいだで幅広く議論が尽くされるべきである。しかし、与党は、この間、「改正」の方向性と内容について、非公開の場で検討を進めてきており、国民に十分な情報が提供されず、議論されることもなかった。このような状況のもとで、政府が今国会に「改正」法案を提出した姿勢は、あまりにも拙速である。
  3. そして、法案は、その内容においても、見過ごすことのできない重大な問題点がある。

    まず、法案が、教育の目標の1つに、「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」「態度」を養うこと、を挙げている点である。

    教育は、子どもが最大限の成長発達を遂げることをめざして行われるものであり(子どもの権利条約29条1項(a))、教育の過程で、子どもの内面に対する働きかけがなされること自体を否定するものではない。しかし、国と郷土を「愛する」かどうかは、最終的には、子ども自身の知識や体験を踏まえた自由な判断に委ねられるべき、極めてデリケートな内心の事柄である。そして、その内心のあらわれである「態度」の自由も保障されるべきである。もし、「国と郷土を愛する態度」を養うことが教育の目標の1つとして掲げられたならば、教師が、単に、国と郷土のすばらしい側面を子どもに教え、伝えるだけでは済まされない。子どもが「国と郷土を愛する態度」を見せているかどうかを何らかの基準で評価しなければならなくなり、それによって、「国と郷土を愛する態度」を強制することになってしまう。そのようなことになれば、憲法19条、子どもの権利条約14条によって保障された思想・良心の自由を侵害することになる。
  4. また、法案が、教育基本法10条1項から、教育は「国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである」との文言を削除し、教育は「この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであ」ると規定した点も、教育基本法がめざした教育のあり方を根本から覆すものであり、問題である。

    同法10条1項は、戦前の軍国主義的国家体制のもとで教育が思想を統制する道具として利用されたことに対する深い反省に基づいて定められたものである。「国民全体に対し直接に責任を負」うとの規定は、ときの国家権力の政治的な意思に左右されずに教育が行われることを保障するうえで、重要な役割を果たしてきた。にもかかわらず、この文言を削除したうえで、「法律の定めるところにより行われるべきである」と定めるのは、同条項がめざしたものを根本から否定することになる。個々の教師や保護者、地域の人々の意見を現場の教育に反映させることができなくなるおそれもある。
  5. 法案は、以上に代表されるような、教育の理念そのものを大きく転換し、あるいは、憲法上・条約上の人権にも関わる重大な問題点をはらんでいる。


よって、当会は、本法案に強く反対するものである。


2006(平成18)年5月12日
横浜弁護士会
会長  木村 良二

 
 
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