2006年04月27日更新
神奈川県教育委員会は、神奈川県警察本部との間で「学校と警察との情報連携に係る協定書」を締結するために、本年3月9日、神奈川県個人情報保護審議会に対し、神奈川県個人情報保護条例に基づく諮問を行った。本協定書案では、学校と警察が、児童生徒に関する個人情報を相互に提供しあうこととされている。当会は、2004(平成16)年12月25日付けでなされた同趣旨の諮問に際しても、2005(平成17)年3月11日付け会長声明で協定締結に反対する旨を表明した。今回諮問された協定書案は、前回諮問された内容から一部修正が施されてはいるが、なお、以下に述べるとおり重大な問題がある。 本協定書案は、児童生徒の違法行為などに関する情報の提供を予定しているが、このような情報は、基本的人権を侵害するおそれが高いセンシティブな個人情報として保護の必要性が高い。したがって、収集目的以外での情報提供は、その手段が目的の達成のために必要最小限である場合でなければ認めるべきではない。この点、本協定書案には法令上の根拠がなく、情報を提供する範囲も「違法行為を繰り返している事案」などとされ、飲酒・喫煙など法令によって禁止された行為全てを含んでおり、未だ明確に限定されているとは言えない。そもそも、個別事案の具体的な事情を考慮せずに、一律の要件に基づく情報提供事務の全体について、包括的に審議会の意見を聴く諮問のあり方自体が、条例の趣旨を逸脱するものである。 また、本協定書案によれば、教師を信頼して相談した内容がそのまま警察に提供されてしまうことになり、児童生徒や保護者は萎縮し、学校に対する信頼も失わせてしまう危険性が高い。犯罪捜査と「立ち直り支援」とは明確に区別されるものではないから、学校が生徒の立ち直りを支援する目的で警察に情報を提供しても、生徒が逮捕されてしまうということは十分にあり得る。そのようなことになれば、生徒や保護者の学校に対する信頼は完全に崩れてしまう。さらに、学校から警察に提供された児童生徒の個人情報が、警察の中で、何時までどのようにして保管され、どのような目的で使用されるのかについても、全く明らかではない。 本協定書案は、児童生徒の非行防止や健全育成を目的としているが、児童生徒は未熟であっても成長していく存在であり、失敗や過ちを犯しながらも教育によってそれを克服し、人格を形成させていくものである。このような協定を結び、学校から警察への情報提供を制度化することは、学校の持つ教育機能を低下させ、教育自体を変容させてしまうおそれがある。学校と警察の必要な協力は、現在の法制度でも十分に可能であり、協定の必要性について十分に説明されているとは言えない。 以上のとおり、本協定書案は、目的達成のために必要最小限のものとは言えず、個人情報保護や教育への影響という点から重大な問題がある。よって、当会は、本協定の締結に対し、改めて強く反対する。
2006(平成18)年4月27日 横浜弁護士会 会長 木村 良二
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