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会長声明・決議・意見書(2005年度)

少年法等の改正に反対する会長声明

2005年06月13日更新

政府は、2005年3月1日、触法少年・ぐ犯少年の事件に関する警察の調査権限を認めること、少年院送致可能年齢を引き下げること、保護観察中の少年の遵守事項違反に対する施設収容処分を可能にすること、等を内容とする「少年法等の一部を改正する法律案」(以下「法案」という。)を国会提出した。

法案提出の背景には、長崎、佐世保等での14歳未満の少年による重大事件に見られる少年非行の凶悪化、低年齢化が指摘されているが、統計上は、触法少年による凶悪犯罪が突然増加したという事実はなく、マスコミの事件報道のあり方等によるイメージが先行しているにすぎない。

法案は、その内容を個々的に見ると、以下に述べるとおり、さまざまな問題がある。
 

  1. 警察の調査権限

    法案は、警察が、触法事件について事案解明のための調査をして事件を児童相談所に送致すること、児童相談所が、一定の重大事件については、原則として家庭裁判所に送致することを内容とし、また、ぐ犯少年についても、警察の調査権限を認める。

    しかし、14歳未満の少年に対する警察の調査権限が認められれば、児童相談所への事件送致規定の創設と相俟って、重大事件になればなるほど、少年の表現能力の欠如や被暗示性・迎合性に対する配慮を欠いた事実上の「取調べ」が、長時間にわたって、しかも弁護士の援助を得られないままに行われる可能性がある。これは、冤罪を招来するおそれがあるばかりでなく、成長過程で虐待を受けるなど被害者的側面も一方で抱えていることの多い触法少年の心をさらに傷つける危険性が高い。

    また、事件の原則家裁送致の規定を創設することは、児童福祉に関する児童相談所の専門的判断を軽視することになり、長期的には、児童相談所の少年非行に対する対応能力の後退を招くおそれがある。

    さらに、ぐ犯とは犯罪ではなく、将来法を犯すおそれにすぎないことから、「ぐ犯少年の疑い」という要件のもとで調査権限を認めるなら、その範囲は無限定に拡大しかねない。また、警察が、学校等の公務所・団体へ照会することも可能であるとされていることから、少年の生活全般が警察の監視のもとにおかれるという危惧を払拭できない。
  2. 少年院送致可能年齢の引き下げ

    政府は、触法少年についても、早期の矯正教育が必要かつ相当と認められる場合に少年院送致を選択できるような「改正」の必要性を指摘しており、仮にこのような「改正」がなされれば、家庭裁判所は、とりわけ重大事件を行った少年に対し、より規律の厳しい少年院送致を選択する場合が増えることが予想されるところである。

    しかし、重大事件を行った少年ほど、被虐待経験に代表されるような複雑で過酷な生育歴を有している場合が多く、正常な対人関係を形成する能力に乏しい。このような少年には、まずは、暖かい家庭的雰囲気の中での「育てなおし」こそが必要であって、施設収容をするなら、児童自立支援施設での福祉的対応に委ねるべきである。

    また、これまで、重大事件の少年であっても、国立の児童自立支援施設で十分に処遇をなし得たものと報告されており、児童自立支援施設の処遇をより充実させるための、人的・物的体制の整備・充実こそが重視されるべきである。
  3. 保護観察中の遵守事項違反に対する施設収容

    法案は、保護観察中の少年の遵守事項違反そのものを理由とする少年院送致等の制度の創設を含むが、遵守事項違反がぐ犯に該当すると考えられる場合には、現行法上のぐ犯通告制度(犯罪者予防更生法42条)を適用することにより少年院送致することも可能であり、新たな制度を設ける必要性は何ら存しない。

    法案は、保護司と少年の人間的な接触を通じて少年を更生に導こうとする制度を、施設収容の威嚇によって遵守事項を遵守させるという制度にしようとするものであり、保護観察制度のあり方そのものを誤った方向に改変するものである。
  4. 国選付添人制度

    法案が国選付添人制度を導入しようとしている点は、子どもの権利条約等国際準則にも合致するものであり、賛成である。

    しかし、対象事件が一定の重大犯罪に限定されている点については、今後さらに拡充する方向で検討されるべきである。また、少年が終局決定前に釈放されたときに付添人選任の効力を失うとする点は、とりわけ否認事件で審理が長期化し途中で釈放された場合や在宅試験観察などの場合に、付添人が不在となることを意味するものであり、少年の権利保障、更生の実現の観点から不十分といわざるを得ない。

    以上のとおり、法案は、児童福祉の機能を後退させ、保護観察制度の本質の変容を招来するなど、到底容認できない。

    当会は法案のないしについては強く反対し、国選付添人制度の創設については、少年の権利保障を図る方向で修正を求める。

 


2005年6月13日
横浜弁護士会
会長   庄司 道弘

 
 
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