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会長声明・決議・意見書(2004年度)

司法修習生の給費制の堅持を求める会長声明

2004年09月09日更新

司法試験に合格して裁判官、検察官、弁護士になるための勉強をする司法修習生は従前特別職公務員として給与が支給されていたところ、政府は、2006年度(平成18年度)からこの給費制を廃止し、希望者に対し奨学金を貸し付ける形の貸与制に切り替えるべく、本年秋の臨時国会に関連法案を提出しようとしている。これは、本年9月1日に開催された政府の司法制度改革推進本部法曹養成検討会において、司法修習生に給与を支給する制度(給費制)を廃止し、貸与制を導入するとの意見がとりまとめられたことに基づくものである。

わが国では、司法試験合格後、合格者を直ちに裁判官、検察官、弁護士の職に就かせず司法修習を課すこととしているが、これは法曹の使命が国民の権利を公正に実現し社会正義を具現化するという極めて重要で公共性に富んだ領域にあり、それゆえ高度の専門的能力と職業倫理を兼ね備えた質の高い人材の養成が強く求められているからである。

この司法修習生に給費制がとられてきたのは、兼業の原則禁止をはじめとする厳しい修習専念義務を課す一方でその生活を保障するためであり、法曹の使命の重要性・公共性に応えうる質の高い人材を養成する上で、司法修習生が生活の不安なく修習に専念できるようにするための現実的かつ不可欠な基盤を提供するためであった。また、これにより法曹資格は貧富の差を問わず広く開かれた門戸となり、多様な人材が裁判官、検察官、弁護士として輩出されてきた。
  
この給費制を廃止するとなると、司法修習生に生活不安を招来するだけでなく、経済的に豊かとは言えない人から教育の機会均等、職業選択の自由をも奪いかねない結果となる。即ち、新たに始まった法科大学院を中核とする法曹養成制度の下においては、大学卒業後の法科大学院在学中に既に多大な経済的負担を強いられており、加えて司法修習生の給費制が廃止されれば、その経済的負担の増大は必至である。貸与制の導入によっても上記弊害が是正されるものではなく、それどころか司法修習を終えた新人法曹が実務を担うときから多額の債務を負っているという事態が招来されることとなる。これを恐れて有能で志のある若者が法曹になることを断念することになれば、多方面から人材を集め幅広い視野を持つ人材を育てようとする法科大学院の理念は大きく後退することとなる。現に、法科大学院に在籍する学生たちは、この問題に直面して給費制廃止反対の声を上げているところである。

法曹同様、高度の専門的能力と職業倫理が要求される医師の世界では臨床研修医の処遇を改善することを目的に本年度から新たに補助金が計上されていることと比較しても、司法修習生の給費制廃止は国家が法曹としての有為の人材を確保し養成する責務を放棄し、そのツケを国民に負担させるものといわざるを得ない。

以上のように、給費制を廃止することは、公共性と高い専門能力・厳しい職業倫理を備えた法曹の養成を担ってきた司法修習制度の根幹を揺るがしかねず、国民が求める質の高い人材を養成するという法曹養成制度の理念にも反するものである。


さらに、法曹養成検討会においては、貸与制への移行を前提として、任官者について貸付金の返済を免除する制度の適否が議論されているが、これは実質的には任官者についてのみ給費制を維持することに等しく、在野法曹に対する差別であり、あってはならない官尊民卑の発想と言え、法曹三者の統一・公平・平等の理念に基づく司法修習を変質させるものである。

よって、当会は、司法修習生の給費制の廃止・貸与制の導入に反対し、給費制の堅持を強く求めるものである。

 

2004(平成16)年9月9日
横浜弁護士会
会長 高橋 理一郎

 
 
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