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自衛隊等のイラク派遣の中止を求める会長談話
会長声明・決議・意見書(2003年度)
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自衛隊等のイラク派遣の中止を求める会長談話
2003年12月22日更新
政府は、12月9日、いわゆるイラク特別措置法に基づいて、「人道復興支援活動」及び「安全確保支援活動」の実施に関する基本計画を閣議決定し、同月19日には派遣準備命令及び先遣隊の派遣命令を発するに至った。
県下に多くの米軍基地及び自衛隊基地をかかえ、その周辺に自衛隊員やその家族を含む多数の住民が生活する神奈川県において、平和のうちに生存する権利はとりわけ重要であり、その住民の人権と生活の擁護のために活動する当弁護士会として、この事態に深い憂慮を表明するものである。
いまイラクでは、戦闘行為やテロ行為が連日のように繰り返され、国連や赤十字国際委員会ですら襲撃を受けて撤退を余儀なくされ、とうとう日本の外交官2名が殺害される事態にまで至っている。その全土が危険な戦闘状態にあることは米国自身が認めるところであり、その状況は12月13日にフセイン元大統領が拘束された後も改善されるきざしはない。
このような状況のイラクに自衛隊等を派遣することは、まず、憲法第9条の禁止する集団的自衛権の実質的な行使となる疑いが強い。すなわち、上記「安全確保支援活動」は、米英軍等に対する医療、輸送、補給等の支援活動であるが、従来の政府の見解によっても、集団的自衛権は、わが国に対する攻撃がないのに連帯的関係にある他国への攻撃に対しわが国が武力をもって参加するものとして、必要最低限度の自衛権の発動を超えるものであって憲法上許されないとするものであるが(昭和47年5月12日参議院内閣委員会における内閣法制局長官答弁)、戦闘状態にあるイラクにおいて米英軍等のために行う上記支援活動は、実質的にそのような性格を帯びざるをえず、あるいはそのようなものへと発展してしまう危険が現に危惧されるからである。
次に、今回の自衛隊等の派遣は、イラク特別措置法自身にも反するものである。同法は、憲法第9条の制約の下で、武力の行使を禁ずるとともに、支援活動等を実施する区域は、「現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる」地域、すなわち明らかな非戦闘地域に限っているが、上記のようにイラクの現状がこの要件を満たすにはほど遠いといわざるをえないからである。そして、現地の不測の事態の下で自衛隊等が戦闘に巻き込まれた場合、同法及び憲法第9条の禁止する集団的自衛権行使としての武力の行使へと発展する危険性もまた、現実に危惧されるのである。
この局面に当たって私たちは、戦後60年近く憲法の平和主義が果たしてきたかけがえのない役割を、改めて確認する必要があると考える。憲法の平和主義は、人類史上余りにも悲惨な結末をもたらした第2次世界大戦を経て、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意」した、人類の叡智の表現である。憲法前文が掲げる恒久平和主義と平和的生存権はその指導理念であり、憲法第9条の戦争の放棄はその具体化として、戦後の歴史を支えてきた。いま、その憲法体制の鼎の軽重が問われている。
当会は、いま政府が選択を誤って取り返しのつかない事態に陥ることを真に危惧し、政府に対し、今般の基本計画に基づく自衛隊等の派遣を直ちに中止すべきことを訴える。そして、神奈川県民及び国民全体に対し、わが国と日本国憲法の針路、行く末についての徹底した議論を、いまこそ尽くすべきことを強く訴えるものである。
2003年12月22日
横浜弁護士会
会長 箕山 洋二
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