2003年12月11日更新
横浜弁護士会はこれまで、弁護士報酬の敗訴者負担制度の導入については、一貫して反対を表明している。
ところが、政府の司法制度改革推進本部における司法アクセス検討会において、以下のような見解に基づいた「合意」による弁護士報酬敗訴者負担制度を導入しようとの動きが急であるとのことなので、緊急に反対声明を出すことにした。 その見解とは、事前に約款、契約書、覚書などで、「弁護士報酬は敗訴者が負担する」と記載していたときには、その条項は有効と解し、訴訟においても敗訴者に対して弁護士費用を請求することができる、という見解である。 そもそも、「合意論」とは、原則として弁護士報酬はすべての訴訟において各自負担としながら、しかし訴訟当事者の双方が弁護士を代理人に選任し訴訟上で合意したときだけ敗訴者負担とする、というものであったはずであり、その特徴は、訴訟上の合意によってのみ弁護士報酬を敗訴者に負担させることが出来るという点にある。 しかしながら、上記のような訴訟前に交わした私的契約による弁護士報酬敗訴者負担の条項を有効と解するのであれば、「合意論」が訴訟上の合意に限るとした立場を根本から覆すことになり、原則は弁護士報酬は現行どおり各自負担とした趣旨が潜脱されることになる。これでは、消費者契約、労働契約、一方が優越的地位にある事業者間の契約などの場合は、そのような規定を拒否し切れない弱者にとっては、弁護士報酬は事実上敗訴者負担ということになりかねない。 これは、敗訴者負担制度における裁判利用の萎縮効果を回避しつつ、司法アクセスを増進させるため、労働訴訟や消費者訴訟など、当事者間に格差のある類型の事件には、敗訴者負担制度を導入しないとしてきた、これまでの議論を無視するものであり、司法アクセス検討会が行った意見募集(パブリックコメント)においても、このような合意による敗訴者負担制度についてはほとんど議論されていないことなども考慮すれば、このような私的契約により敗訴者負担制度の導入を是認する方策は、正に国民を欺くものと言わなければならない。 当会は、会長声明(平成13年1月11日)、会長談話(平成15年1月29日)をすでに発表し、弁護士報酬敗訴者負担制度の導入に強く反対の意見を表明するとともに、署名活動、市民集会、街頭デモンストレーション等の諸活動を行なって広く市民に対し本制度の危険性を訴えてきた。また、日本弁護士連合会が司法制度改革推進本部に提出した本制度反対の署名は100万筆を超え、さらに同推進本部が行なった意見募集(パブリックコメント)には約5000通の意見が寄せられ、そのうち約98%は制度導入反対の意見であった。今般司法アクセス検討会が「全ての訴訟について弁護士報酬は各自負担を原則とする」との方向で最終的な検討に踏み切ったことは、これらの反対運動の大きな成果である。かような状況を真摯に受け止めるならば、近時の同検討会の動きは、国民の期待を裏切る結果となる恐れが甚だ強い。 従って、弁護士報酬敗訴者負担を定める私的契約の効力を否定する何らの有効な立法上の措置も講ずることなく拙速に合意による敗訴者負担制度を導入することには断固反対である。 以上
2003年(平成15年)12月11日 横浜弁護士会 会長 箕山 洋二
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