2003年09月10日更新
2003年9月10日 横浜弁護士会 会長 箕山 洋二
政府は、本年7月14日、司法制度改革推進本部の法曹養成検討会において、司法修習生の給費制を改め、「貸与制への移行という選択肢も含めて柔軟に検討する」との座長取りまとめを行った。その方針変更は、財務省の財政制度審議会が「平成16年度予算編成の基本的考え方について」(建議・平成15年6月9日)の中で給費制の早期廃止を提言するなど、財務省を中心とした圧力が増大したからである。 しかし、給費制は、司法修習生の生活を保障することによって修習生が修習に専念できるようにしたものであり、現行の司法修習制度の基盤となるものであった。 すなわち、法曹養成制度は、単なる職業人の養成ではなく、国民の権利擁護・法の支配の実現にかかわる専門家を養成する制度であって、法曹の養成自体が国や社会の在り方に直接影響を及ぼす事柄であり、それは極めて公共性・公益性が強いものである。しかも、法曹に対しては、国民が基本的人権の擁護・社会正義の実現を期待すると共に、近時にあっては、個人や企業・団体が自立した社会生活を営み円滑な社会活動を行うにあたって、時宜を得た諸種の法的サービスを提供するように要請しており、かような時代に即応した法曹を養成することは、社会にとっては益々重要な課題となる。 他方、司法修習生にあっては、修習専念義務が課せらており、他の職業に就いて収入を得る途を閉ざされている。しかも、新しく立法化された法科大学院制度の導入は、司法修習生になる前に2年ないし3年の法科大学院への在学を求めるものであり、その間の費用負担を考えると、司法修習生の給費制が仮に廃止されるとなれば、法曹になろうとする者の経済的負担は現行制度より一層増大することは明らかである。この経済的な負担の増大がゆえに、前途有為な若者が法曹への志望を断念することになれば、法曹への有用な人材登用は望み得ないことになろう。それは社会、国民にとって大きな損失となる。 なお、一部の論者には、給費制を廃止して貸与制に切り替えても、任官者には返済を免除する措置を講じれば問題が解消する旨の見解を述べる者がある。しかし、これは法曹の中でも裁判官・検察官志望の者を特別に優遇する措置であって、公平を欠き、平等の原則に違反するだけでなく、弁護士の公的活動の側面を看過するものである。 弁護士は、国選弁護・当番弁護・家庭裁判所の家事調停員・地方裁判所及び簡易裁判所の民事調停員・弁護士任官・非常勤裁判官(民事調停官・家事調停官)・各種法律相談・法律扶助活動・行政等の各種委員会委員・弁護士会での各種委員会活動・過疎地型公設事務所及び都市型公設事務所への派遣活動等の公共的ないし公益的諸活動を現に担っており、その諸活動の実践により広く社会もその恩恵に浴している。かかる公的活動を継続的に実行するだけの情熱と志の高さが弁護士には求められている。かような弁護士を志望する者がその公益的側面を修養するためにも司法修習生として修習していることを決して忘れるべきではない。 従って、法曹養成の基礎となる司法修習生に対しては、可能な限り国費が投入されるべきであり、そうすることが時代に即応した能力と識見を備えた法曹を生み出す基盤の確保となる。近時の司法制度改革においても、国は必要な財政上の措置を講じることが義務づけられており(司法制度改革推進法第6条)、政府の財政事情により給費制を廃止することは許されるものではない。 よって、司法修習生の給費制度を今後も堅持するように強く求めるものである。 以上
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