2002年03月26日更新
本年3月19日、政府は司法制度改革推進計画(以下、推進計画という)を決定した。同月20日、最高裁も司法制度改革推進計画要綱を発表した。しかるに、これらについては、いくつかの問題点が存在する。
先ず第1に、裁判所の人的体制の充実の問題である。最高裁判所の推進計画要綱においては「裁判官の必要な増員を図るため、所要の措置を講ずる」、政府の推進計画においては「裁判官……の必要な増員を行うこととし、所要の措置を講ずる」という内容でしかない。これは、司法制度改革審議会の意見書(以下、単に「意見書」という)での「大幅な増員」、説明文中の「10年間で500人」というような提言からは大幅に後退している。裁判官の大幅増員は、今般の司法制度改革の全分野において、改革の大前提として位置づけられるものであって、それなしに司法制度改革の前進はあり得ない。当会の「神奈川の司法10の提言」では、神奈川県内の裁判官について、地裁では約3倍、家裁では約5倍、簡裁でも大幅な増加を提案しており、意見書の提言である「10年間で500人」という増加案程度では不十分であると考えているが、司法制度改革の実施段階になって「意見書」の提言からも更に後退していることは、到底許されないものである。
第2に、弁護士費用の敗訴者負担問題である。意見書では、弁護士費用の原則的導入を図るのではなく、具体的な個別的検討の上で検討することとされていたのに、推進計画では意見書本文の文言をそのまま使いながら文言を逆転させることにより、敗訴者負担の原則的導入を計画に盛り込んでいる。これは意見書の内容に実質的な変容を加えているものであり、到底許されざるものである。
第3に、刑事裁判制度の改革の問題である。推進計画では、刑事裁判に対する裁判員制度の導入とともに、刑事裁判の充実・迅速化等のための具体的な整備を平成16年通常国会に提案する予定とされているが、被疑者被告人の身柄拘束に関連する問題については単なる「改革改善のための検討」等にとどまり、取調手続きの可視化については書面による記録という程度にとどまったほか、公判の連日的開廷のための前提となるべき刑事裁判制度の具体的改革の内容については、一言も触れられていない。これらは、一方で「国際化」への対応といいながら、刑事裁判手続きについての国際的水準からは著しく立ち後れている結果となっているのであり、意見書の基本的問題点を推進計画においても踏襲しているのであって、大きな欠陥である。
加えて、推進計画において、財政面の措置が触れられていないことを指摘せざるを得ない。かえって、平成14年度の予算案では、司法予算は削減されている。司法分野における人員及び財政の増大は、司法制度改革にとって必要不可欠なものである。また、規制改革・行政改革を促進することは、それによって必然的に紛争が増加することを意味するのであり、司法予算の増加は必然的なものである。この点からも、推進計画の問題点を指摘せざるを得ない。 以上のように、推進計画については、大きな問題点が存在し、このままでは意見書のめざす「市民の司法の実現」に逆行するものと言わざるを得ない。
よって、各検討会においては、今般発表された各推進計画の具体的制度設計の中で問題点を克服することが強く望まれるし、政府においては司法制度改革を推進していくに足りる充分な財政的措置を講ずることを、強く要望するものである。 平成14(2002)年3月26日 横浜弁護士会 会長 須須木 永一
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