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会長声明・決議・意見書(1999年度)

住民基本台帳法の一部を改正する法律案に関する会長声明

1999年07月08日更新

去る6月15日、衆議院本会議において、住民基本台帳法の一部を改正する法律案(以下「法案」という)が可決された。法案では、すべての国民に「住民票コード」と呼ばれる10桁の個人番号を付し、氏名、住所、性別、生年月日の4情報とともに市町村がコンピューターで管理し、オンラインで指定情報処理機関(都道府県単位のセンター及び全国センター)において管理・保有しようとしている。


しかし、この法案には、プライバシー保護等の点から重大な疑問がある。


そもそも、住民基本台帳法は、市町村単位で住民の記録を正確に把握し、居住関係を公証するための制度であり、住民基本台帳法の改正により住民票コードを導入して全国単位で個人識別に用いることは法の目的から逸脱するものである。


また、住民票コードを利用できるのは法案に規定された政府の事務についてのみとされているが、最も確実な個人識別手段となる住民票コードの利用はより広い分野に広がっていくであろうし、法案では禁止規定が置かれているものの、民間からの利用の要望も強く、事実上住民票コードが流通する危険性が高い。


これに対し、現行の個人情報保護法(行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律)は、民間情報を対象とせず、政府機関の個人情報についても利用制限等の保護措置が不十分なものであるから、住民票コードが流出した場合、当該個人に深刻な不利益が生じるとともに大きな社会的不安をも招くことになる。今日、先ずなすべきことは個人情報保護制度の整備であり、個人情報保護法の全面改正を後回しにした住民票コード導入は本末転倒といわざるを得ない。


最も重要な問題は、住民票コードが、国家が国民の行動を逐一把握することを可能ならしめる国民総背番号制度への第一歩であり、国民のプライバシーに重大な脅威を与えるものである。


さらに、個人の申請により交付されるICカードは、利用範囲が不明で、紛失した場合の不利益が大きく、しかも携帯が事実上強制される恐れがある。このように法案の規定には問題が多い上、その運用には多額の費用を要する。


政府は、住民票コードにより、全国どの市町村でも住民票の交付を受けられるほか、恩給、児童扶養手当等の申請の際の本人確認が簡単になる等、行政サービスの効率化が図られるというが、こうした多くの問題をもつ制度を導入するかについては、利便性のみにとらわれず、プライバシーをはじめとする基本的人権保障の観点から慎重に検討する必要がある。


よって、当会は、参議院において慎重かつ徹底した審議がされるよう強く求めるものであり、法案については、現状のままでの制定には強く反対する。

 

平成11年7月8日
横浜弁護士会
会長   岡本 秀雄

 
 
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