1999年06月10日更新
去る3月10日、「少年法等の一部を改正する法律案」(以下「本法案」という)が、今国会に上程された。
少年法は、少年の健全な保護育成をめざし、非行を犯した少年に対して、刑罰を科すのではなく、適切な教育や環境調整などを施すことによって立ち直りを支援することを目的としている。
ところが「少年司法における事実認定手続のいっそうの適正化を図るため」として上程された本法案は、極めて広範な事件について検察官の関与を認めるとともに、観護措置期間を現行の最長4週間から12週間に延長し、さらに検察官に抗告権を認めるなど少年審判を変質させる重大な問題点を抱えている。
少年審判では、刑事裁判と異なり、裁判官はあらかじめすべての捜査記録に目を通した上で審理に臨んでおり、少年が非行事実を争った場合に、検察官が審判に関与して少年の主張を弾劾することを認めることは、少年にとって著しく不公正であるばかりか、保護主義の理念を大きく歪めるものである。さらに、少年は、大人に比べて誘導にのりやすく虚偽の自白をしがちであることを考えるならば、現行職権主義構造のもとで検察官の関与を認めることは、むしろ事実認定を誤らせるおそれが高いと言わざるを得ない。
また、観護措置期間の延長は、身体拘束の長期化によって、少年の心身により大きな悪影響を与え、退学や失職等の回復困難な不利益を与える可能性を高めるばかりでなく、少年がこれらの不利益をさけたいとの思いから、あるいは不安定な心理状態のもとで、虚偽の自白をしてしまうことにもなりかねず、冤罪の危険性をさらに増大させるものである。
さらに、検察官に抗告権を与えることは、少年を今までよりはるかに長期間にわたって不安定な立場におくことになり、それによって成長発達課程にある少年の受ける不利益は計り知れないものである。
以上のとおり、本法案は、現行法で認められた少年の権利を後退させ、子どもの権利条約にも抵触するおそれがあると言わざるを得ない。
そもそも、少年法がどうあるべきかは、大人社会が子どもの問題に対してどう対応していくのかという社会全体に向けられた重大な問いであり、これに対しては、ひとり法律家のみならず、教育・児童福祉関係者、医師、心理学者、家庭裁判所調査官、保護矯正関係者など、さまざまな分野の専門家の意見に十分に耳を傾け、さらに子どもを含む国民各層による慎重な議論が必要である。
よって、当会は、本法案に強く反対し、真に少年の健全育成をめざす少年司法制度改革の実現を期することを表明する。
1999年(平成11年)6月10日 横浜弁護士会 会長 岡本 秀雄
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