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周辺事態法案等に関する会長声明
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周辺事態法案等に関する会長声明
1999年03月18日更新
「周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律案」とその関連法案が国会に提出され、現在その審議が始められている。
これらの法案は、一昨年9月日米政府間において合意された「日米防衛協力のための指針」(新ガイドライン)を実行あらしめるために国内法を整備しようとするものであり、上記周辺事態法案は、周辺事態に際して、自衛隊等による米軍への後方地域支援、後方地域捜索救助活動、船舶検査活動などの対応措置を定めるとともに、地方自治体その他の者に対しても対応措置への協力要請等ができることを定めようとするものである。
この法案に対しては、ことに数多くの米軍基地を抱える神奈川県において、多くの地方自治体や県民から様々な懸念、不安が表明され、市議会や町議会でも法案に反対する意見書、危惧の念を表明する意見書があいついで採択されている。
神奈川県下においては現在でも、たとえば厚木基地における訓練の強化による騒音被害の拡大など、米軍基地による市民生活への影響は甚大なものがあり、これに加えてすでに、基地として提供されていない港湾への米軍艦船の寄港などが問題となっているところである。
周辺事態法案によれば、周辺事態における米軍への協力は、安保条約6条に基づく米軍基地の提供を超えた、きわめて広範な事項にわたっていることは、その別表をみれば明らかである。地方自治体との関係でも、港湾の管理、貯油施設の許可(消防法)、病院の提供、武器・弾薬を含む物品や人員の輸送などのほか、どのような協力要請があるのか予測が困難であり、また、このような後方地域支援によって市民生活への影響がさらに深刻なものになるのではないか、他国から不測の攻撃を受けることにならないかなど、地方自治体、県民の不安には深刻かつ現実的なものがある。
周辺事態法案においては、上記意見書も指摘するように、「我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」という「周辺事態」の概念がきわめて不明確であり、また、「我が国領域並びにそこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる我が国周辺の公海及びその上空」という「後方地域」なるものも、画然と線引できる性格のものとは思われない。
しかも、「周辺事態」が生じたとの判断や、自衛隊はもちろん地方自治体・民間企業・国民の協力を含む後方地域支援などの対応措置の内容は、総理大臣が閣議の決定により実施するものとされ、国会の関与は事後報告を受けることにとどまっていて、内閣に対する白紙委任というべきものとなっている。国民全体の日常生活や平和のうちに生きる権利の基本を左右しかねない重大な意思決定に、国民の民主的コントロールが及ばない構造となっているのである。
そもそも新ガイドラインは、安保条約5条のいう「日本の施政下にある領域」への武力攻撃ではない場合である「周辺事態」に、日本が米軍を支援することを取り決めたものであること、安保条約6条との関係でも、新ガイドラインに先立つ日弁安保共同宣言(安保再定義)で「アジア太平洋地域の平和と安全の維持」等への対応が唱われたのを受けたものである「周辺事態」への対処は、米軍への基地提供目的である「極東」の範囲を超えてしまっているのではないかという疑問を生ずることなど、安保条約の実質的な改定に当たる疑いがある。しかし、安保条約改定としての国民的議論と条約承認の手続が践まれないまま、このたびその国内法化としての周辺事態法案等の制定が進められようとしているのである。
ここに当会は、以上のような多くの法的問題点をかかえ、また国民・県民の人権や生活に深刻な影響を与えることの危惧される周辺事態法案及び関連法案について、重大な懸念を表明せざるをえない。これらの法案は、新ガイドラインについて国民的議論が不十分である経過も含め、改めて広く議論が尽くされることが不可決であり、国会においても、そうした十分な国民的議論を経たうえで、慎重な審議が尽くさなければならないと考える。
憲法の規定する国民の基本的人権、平和のうちに安全に生きる権利が、政府の行為によって万が一にも侵害されてはならないからである。
1999年(平成11年)3月18日
横浜弁護士会
会 長 井上嘉久
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