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4 弁護士と社労士との違い

(1)弁護士の業務範囲

 【弁護士】の業務範囲については、以下のものが規定されています(弁護士法第3条)。

① 訴訟事件に関する行為

② 非訟事件に関する行為

③ 審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為

④ その他一般の法律事務

 このように、弁護士は、労働分野や社会保険分野を含む法律事務全般を取り扱うことができ、その権限についての制限はありません。

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(2)社会保険労務士(社労士)の業務範囲

ア 特定社労士でない一般の社労士の業務範囲

 特定社労士でない一般の【社労士】の業務範囲については、以下のものが規定されています。
 なお、⑤の業務については、社労士でなくても誰でも取り扱うことができます。

① 労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成(社労士法第2条第1項第1号)

② 労働社会保険諸法令に基づく申請書等の提出手続代行(社労士法第2条第1項第1号の2)

③ 労働社会保険諸法令に基づく申請等の事務代理(社労士法第2条第1項第1号の3)

④ 労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類の作成(社労士法第2条第1項第2号)

⑤ 事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項についての相談又は指導(社労士法第2条第1項第3号)

⑥ 事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項について、裁判所において、補佐人として、弁護士である訴訟代理人とともに出頭し、陳述すること(社労士法第2条の2第1項)

イ 特定社労士の業務範囲

 特別研修を経て紛争解決手続代理業務試験に合格し、かつその旨が社労士会連合会の登録に付記された【特定社労士】の業務範囲については、上記①~⑤に加え、以下の紛争解決手続代理業務が規定されています。

⑦ 個別労働関係紛争解決促進法によるあっせん手続、障害者の雇用の促進等に関する法律第74条の7第1項・雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律第18条第1項・育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第52条の5第1項・短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律第25条第1項の調停手続についての代理(社労士法第2条第1項第1号の4)

⑧ 都道府県労働委員会が行う個別労働関係紛争(労働関係調整法第6条に規定する労働争議に当たる紛争、行政執行法人の労働関係に関する法律第26条第1項に規定する紛争並びに労働者の募集及び採用に関する事項についての紛争を除く。)に関するあっせん手続の代理(社労士法第2条第1項第1号の5)

⑨ 個別労働関係紛争(紛争の目的の価額が120万円を超える場合には、弁護士が共同受任しているものに限る。)であって、厚生労働大臣が指定するものが行うものに関する民間紛争解決手続についての代理(社労士法第2条第1項第1号の6)

 この紛争手続代理業務には、以下の事務が含まれます(社労士法第2条第3項第1~3号)。

a 上記⑦~⑨の民間紛争解決手続についての相談

b 上記⑦~⑨の民間紛争解決手続の開始から終了に至るまでの間の和解交渉

c 上記⑦~⑨の民間紛争解決手続により成立した和解における合意を内容とする契約の締結

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(3)「個別労使紛争」に関する弁護士と社労士との違い

 解雇・内定取消し・出向や配置転換・賃下げ・残業代・パワーハラスメントやセクシャルハラスメント・労災といった様々な問題をめぐる個別労使紛争(個々の労働者と使用者との間の労働にまつわる紛争)においては、弁護士と社労士とは、以下の場面で違いが生じます。

ア 「示談交渉における代理/その交渉のための相談」に関する弁護士と社労士との違い

 【弁護士】は、法律事務全般を取り扱うことができますので、労働者側・使用者側いずれの立場にあっても、相手方との示談交渉やその示談交渉のための相談のいずれについても行うことができ、その権限についての制限もありません。

 特定社労士でない一般の【社労士】は、相手方との示談交渉やそのための相談を行う権限を認める根拠となる規定がないので、これらを行うことはできません。
 特別研修を経て紛争解決手続代理業務試験に合格し、かつその旨が社労士会連合会の登録に付記された【特定社労士】であっても、相手方との示談交渉において一方当事者の代理人として活動することやその活動のための相談を行うことができるのは、前記(2)⑦~⑨記載の民間紛争解決手続を利用している場合で、かつその開始から終了に至るまでの間に限られます。
 すなわち、この民間紛争解決手続を利用していない場合はもちろん、利用している場合であっても、この手続が開始されていないときや既にこの手続が終了しているときには、【特定社労士】であっても、相手方との示談交渉において一方当事者の代理人として活動することやその活動の相談を行うことはできません。
 また、【特定社労士】であっても、前記(2)⑦~⑨記載の民間紛争解決手続により成立した和解における合意を内容とする契約を締結できるだけですので、この民間紛争解決手続外で和解が成立した場合には、和解契約を締結することもできません。

イ 「民間紛争解決手続における代理/その活動のための相談」に関する弁護士と社労士との違い

 【弁護士】は、法律事務全般を取り扱うことができますので、労働者側・使用者側いずれの立場にあっても、前記(2)⑦~⑨記載の民間紛争解決手続において一方当事者の代理人として活動することやその活動のための相談のいずれについても行うことができ、その権限についての制限もありません。

 特定社労士でない一般の【社労士】は、相手方との示談交渉やそのための相談を行う権限を認める根拠となる規定がないので、これらを行うことはできません。
 特別研修を経て紛争解決手続代理業務試験に合格し、かつその旨が社労士会連合会の登録に付記された【特定社労士】は、前記(2)⑦~⑨記載の民間紛争解決手続についての相談を行うことはできますが、代理ができるのは、その民間紛争解決手続の開始から終了に至るまでの間に限られます。

ウ 「労働審判手続における代理/その活動のための相談」に関する弁護士と社労士との違い

 労働審判手続とは、当事者から労働審判手続の申立てがなされた場合に、労働審判委員会が事件を審理して、調停の成立による解決の見込みがある場合には調停を試み、調停による解決に至らない場合には労働審判を行うというもので、原則として3回以内の期日で審理が終結されることから大いに活用されています。

 【弁護士】は、法律事務全般を取り扱うことができますので、労働者側・使用者側いずれの立場にあっても、労働審判手続において一方当事者の代理人として活動することやその活動のための相談のいずれについても行うことができ、その権限についての制限もありません。

 【社労士】は、事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項について、裁判所において、補佐人として、弁護士である訴訟代理人とともに出頭し、陳述することしか許されていませんので、労働審判手続において一方当事者の代理人として活動することやその活動のための相談を行うことはできません。

エ 「訴訟手続における代理/その活動のための相談」に関する弁護士と社労士との違い

 【弁護士】は、法律事務全般を取り扱うことができますので、労働者側・使用者側いずれの立場にあっても、訴訟において一方当事者の代理人として活動することやその活動のための相談のいずれについても行うことができ、その権限についての制限もありません。

 【社労士】は、事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項について、裁判所において、補佐人として、弁護士である訴訟代理人とともに出頭し、陳述することしか許されていませんので、訴訟手続において一方当事者の代理人として活動することやその活動のための相談を行うことはできません。

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(4)「集団的労使紛争」に関する弁護士と社労士との違い

 集団的労使紛争(労働組合と事業者との間の紛争)においては、弁護士と社労士とは、以下の場面で違いが生じます。

ア 「団体交渉における代理/その交渉のための相談」に関する弁護士と社労士との違い

 【弁護士】は、法律事務全般を取り扱うことができますので、労働者側・使用者側いずれの立場にあっても、団体交渉において一方当事者の代理人として活動することやその活動のための相談のいずれについても行うことができ、その権限についての制限もありません。

 【社労士】は、争議行為が発生し、又は発生するおそれがある状態において、当事者の一方の行う争議行為の対策の検討、決定等に参与することはできます。
 しかし、団体交渉において一方当事者の代理人として活動することやその活動のための相談を行う権限を認める根拠となる規定がないので、これらを行うことはできません。

イ 「労働関係調整法上の紛争調整手続における代理/その活動のための相談」に関する弁護士と社労士との違い

 団体的労使関係において労働争議を予防し、又は解決するための手続として、労働関係調整法上の紛争調整手続として、あっせん・調停・仲裁が定められています。

① あっせん(あっせん員が関係当事者間を取り持って、双方の主張の要点を確かめ、事件が解決されるよう努める手続)

② 調停(労働委員会に設けられる調停委員会が、関係当事者から意見を聴取して調停案を作成し、その受諾を両当事者に勧告する手続)

③ 仲裁(労働委員会に設けられる仲裁委員会が、両当事者に対し拘束力ある中性裁定を下す手続)

 【弁護士】は、法律事務全般を取り扱うことができますので、労働者側・使用者側いずれの立場にあっても、労働関係調整法上の紛争調整手続において一方当事者の代理人として活動することやその活動のための相談のいずれについても行うことができ、その権限についての制限もありません。

 【社労士】は、労働関係調整法上の紛争調整手続において一方当事者の代理人として活動することやその活動のための相談を行う権限を認める根拠となる規定がないので、これらを行うことはできません。

ウ 「不当労働行為救済申立手続における代理/その活動のための相談」に関する弁護士と社労士との違い

 不当労働行為救済申立手続は、不当労働行為を受けた労働組合又は労働組合員が、都道府県労働委員会に対して不当労働行為の救済を申し立てるというもので、都道府県労働委員会の命令に不服がある場合には中央労働委員会に対する再審査の申立ても可能です。

 【弁護士】は、法律事務全般を取り扱うことができますので、労働者側・使用者側いずれの立場にあっても、不当労働行為救済申立手続において一方当事者の代理人として活動することやその活動のための相談のいずれについても行うことができ、その権限についての制限もありません。

 【社労士】は、不当労働行為救済申立手続において一方当事者の代理人として活動することやその活動のための相談を行う権限を認める根拠となる規定がないので、これらを行うことはできません。

エ 「取消訴訟手続における代理/その活動のための相談」に関する弁護士と社労士との違い

 取消訴訟手続とは、不当労働行為救済申立手続における都道府県労働委員会の命令や中央労働委員会の命令に対し取消を求める訴訟手続です。

 【弁護士】は、法律事務全般を取り扱うことができますので、労働者側・使用者側いずれの立場にあっても、取消訴訟手続において一方当事者の代理人として活動することやその活動のための相談のいずれについても行うことができ、その権限についての制限もありません。

 【社労士】は、事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項について、裁判所において、補佐人として、弁護士である訴訟代理人とともに出頭し、陳述することしか許されていませんので、取消訴訟手続において一方当事者の代理人として活動することやその活動のための相談を行うことはできません。

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