模擬裁判員裁判 |
裁判員裁判の模擬裁判の弁護人役を担当することになった。事案は殺人事件の精神鑑定事案であり、実際の手続を想定して約1か月に及ぶ日程で行われた。6月26日に判決に至り、結果は無罪。裁判官3人全員を含む9人中7人の無罪支持だった。 |
しかし私たち3人の弁護団は、その結果にあまり浮かれることはなかった。模擬裁判を経験した結果、この制度に対し、一抹の不安を感じたからだ。 |
要約鑑定書の問題点 |
裁判員裁判では必ず公判前整理手続を行うことになる。この手続では、裁判員がまだ選任されていない段階で争点を整理していくのだが、裁判員に理解してもらえるようにとの理由で、証拠がきわめて簡略化される。 |
特に本件では精神鑑定書が簡略化されたが、精神鑑定書というのは一つ一つの記載が重要であり、切り貼りできるようなものではない。にもかかわらず、長文で難解な鑑定書はそのまま証拠にはできないとして、要約された鑑定書だけが証拠とされた。その結果、公判ではもとの鑑定書による事実認定はできない。要約の中にどこまでの内容を残すかは、この公判前整理手続の中で検討しなければならないのである。 |
また、裁判員裁判は一審のみであるが、控訴審になった場合にも裁判官は要約された証拠に基づいて判断することとなるのであり、いたずらに真実から遠ざかる裁判にならないかと不安に思えた。 |
耳で聞いただけの証拠 |
冒頭陳述や弁論は10分程度で行うのがセオリーとされる。裁判員の手元に基本的に書証はなく、耳で聞いた証言が中心的な証拠となる。そして耳で聞いただけの証拠は、聞き間違いなどにより不正確なものとして記憶されている危険性がある。 |
現実に本件では、裁判員ほか関係者は鑑定人の証言を間違って記憶し、更には、争いがない事実まで間違って認定されてしまった(母親と同居していないのに同居していたこととされた)。事案としては単純だったのでこの程度で済んだが、もっと複雑な事案の場合にはどうなるのかと不安を感じた。 |
評議段階 |
評議において裁判官が裁判員を誘導しがちであるということを聞いていたが、本件ではそれはあまり感じなかった。積極的に発言する裁判員もいて、みな自分の意見を言っていたと思う。 |
しかし、争いのない医学的知見について誤った理解を主張する裁判員の意見をそのままにして評議が終わったのには衝撃を受けた。専門分野での明らかな知見に反するような意見については、裁判所が調整を図らないとおかしなことになるだろう。 |
まとめ |
今行われようとしている裁判員制度を一言で言えば、裁判員負担軽減絶対主義と言えるのではなかろうか。裁判員の負担を軽くするため、正確性を後退させ、主張・証拠を簡略化して、最終的には裁判員に判断してもらうところを先に裁判員抜きで設定し、その上で判断させている、そんな感じを受けた。 |
(会員 阪田 勝彦) |