過ちを繰り返さぬために |
第57期 穂積 匡史会員 |
弁護士登録して1年数か月が経った。振り返ってみて強く感じるのは「弁護士って幸せな職業だな」ということだ。自分の信念に従って行動でき、また行動しなければならない職業は、他になかなかないと思うからだ。 |
そんな私の心をしばしばよぎるのは「過ちは繰り返しませぬから」というヒロシマの誓いである。戦争の惨禍を思うときはもちろん、日常生活で思いがけず人を傷つけてしまったとき、不届きな行為をして妻から大目玉を食らったとき、仕事でミスをしてしまったときなどにも、この誓いを噛み締める。 |
それでも過ちは繰り返される。ある漫画家によれば、鶏は三歩あるくと、それまで考えていたことを忘れるのだとか。私も、反省した矢先に反省した内容を忘れてしまう。そのたびに「過ちは繰り返しませぬから」と誓う。 |
開発ブームに沸く中国では、日本軍が敗戦時に遺棄した毒ガス兵器が地中や河川から掘り出され、知らずに触った市民に被害を及ぼしている。2003年8月4日には、東北地方チチハル市で44人が死傷する未曾有の惨事も起こった。当時修習生だった私は、弁護士となった今、被害者代理人として日中両政府に解決を呼びかけている。 |
自分の先達による60年前の遺留物が、今になって、罪もない市民に地獄の苦しみを与えているのであるから、心から何とかしてあげたい、何とかしなければならないと思う。同時に、この事件に取り組むことが、戦争を知らない自分にとっての「過ちは繰り返しませぬから」という誓いになっている。 |
かつて会社員だったころには、仕事を生活の糧を得る手段と捉え、「余暇を使って自分探し」とか「アフターファイブ(死語?)に自己実現」とか思っていたものだ。今は、毎日が充実した自己実現であるから、本当に幸せな職業に就けたと実感している。 |
ところで、チチハル弁護団は大赤字である。稼ぎもないのに「幸せ!」などと気楽に言う私の面倒をみてくれる事務所の所員や、支えてくれる家族に感謝しなければと自戒する毎日である。こんな働き方自体が「過ち」だったなどというオチにならないよう頑張っている。 |