日弁連の公設事務所「日南ひまわり基金法律事務所」に当会の晋平会員(二七期)が所長として赴任する。 |
宮崎県日南市は九州の小京都と呼ばれる飫肥(おび)、古い港町で知られる油津(あぶらつ)、行政の中心である吾田(わがた)の三つの町からなる。宮崎地裁日南支部は飫肥にあるが、常駐する裁判官は判事補一名で、管内人口は約八万九〇〇〇人である。 |
日弁連の公設事務所は現在九か所あるが、八月一日から業務を開始する会員に応募の動機や苦労した点を聞いた。 |
(インタビュアー 小林雅信、岩田恭子) |
−公設事務所に応募した動機は何ですか |
いろいろありますが、社会や人の役に立ちたいと思って弁護士になったものの、この二七年を振り返って、どこまで実践できたかという忸怩たるものがあって、少しでも人の役に立ちたいと思ったことが動機の一つです。私の母校の栄光学園には「フォア・アザース」(人のため)という校訓がありますが、この言葉が常に私の背景にあるように思います。 |
次に、私は日弁連でも当会でも業務対策関係の会務を担当し、その一つとして弁護士へのアクセス障害の解消に取り組んできましたが、現在の司法改革の流れの中で、身をもってその一翼を担いたいと思ったからです。 |
また、五七歳になって変化や感激が少なくなってきましたが、現状に甘んじていていいのか、このまま今後の人生を過ごして充足感・達成感を得られるのかという疑問もありました。 |
それから、都会を離れて暮らしてみたかったという気持ちもありましたね。実際、応募してからは、わくわくするような毎日を過ごしています。 |
−応募先として日南を選んだのはどうしてですか |
応募を決めたのは、昨年の一一月ころです。前から漠然と考えていましたが、「自由と正義」に九州の公設事務所の案内が載ったのがきっかけです。従来の公設事務所は東北・北海道が中心でしたが、赴任するなら暖かくて趣味のゴルフができるところがいいと思い、日南を選びました。 |
−事件の依頼者や顧問先との関係はどうしましたか
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継続事件は同じ事務所の金子泰輔さんと三品篤さんに全部引き継いでもらいました。破産管財事件は早めに裁判所と協議し、常置代理人の金子さんが破産管財人に就任することになっています。 |
顧問先も金子さんと三品さんが実務を担当し、顧問契約は従来どおりとすることでほとんど了解を得られています。任期が三年間ということと、日弁連の公設事務所ということで納得してもらっています。 |
−横浜の事務所を維持する上でどのような点に苦労しましたか |
やはり大変なのは経理と労務関係ですね。顧問料などは全て横浜の事務所の維持に使ってもらい、経営は金子さんと三品さんに任せることになります。また、事務所の賃貸借契約や事務所名は変えませんが、職員の雇用や労働保険などは全て金子さんを主体とすることで切り替えてもらいました。 |
−日南での事務所開設に際してはどのような点に苦労しましたか |
やはり横浜からは遠いことですね。これまで四回現地に行きましたが、全て二泊か一泊の泊りがけです。 |
初回は昨年末ですが、正式に応募する前に現地に行き、どんなところか見たり、宮崎県弁護士会の会員に会ったりしました。 |
二回目は四月中旬ですが、事務所と住居を探しに行きました。住居については、前回行った際、不動産業者から賃貸物件などないと言われていました。通常は縁故がない限り借りられないようですが、市役所の方々の協力なども得て、三LDKの一軒家を月六万円で借りることができました。また、事務所は社会福祉協議会にお願いしたりして探し、日南駅前のビルの二階に約二〇坪の事務所を借りました。 |
三回目は五月中旬で内装業者との打ち合わせなどのため、四回目は六月中旬で職員採用の面接のために行きました。 |
内装や什器備品は日弁連からの補助金五〇〇万円の範囲内で収まるように腐心し、パソコンや電話などはリースにしました。また、法律事務所での経験のある職員を採用することは不可能なので、新たに採用した職員の研修にも時間をかける必要があります。 |
−日南ではどのような仕事をしたいと思っていますか |
「来るものは拒まず」で何でもやりたいと思っています。ただ、人口比による破産率や離婚率が高いようなので、債務整理や離婚事件が多くなると思っています。 |
−公設事務所制度の問題点については何か感じましたか |
細かい話ですが、宮崎県弁護士会に入り、また横浜弁護士会に戻る時に、現行の制度だとそれぞれ入会金がかかることになります。しかし、通常の登録換えと異なり、公益活動の一環として赴任するわけですから、特に一定の期限付きで応募する会員には配慮をしてほしいと思います。 |
−当会における公設事務所構想についてはどのように考えていますか |
当会で都市型または過疎地型公設事務所を独自に設置するというよりも、公設事務所に応募する弁護士のための協力事務所を募り、会として援助する態勢を整えるべきだと思います。たとえば、ある公設事務所で執務する弁護士を代々当会から派遣できるようにすると、他会と密接な結び付きも生まれると思います。 |
−最後に抱負と会員へのメッセージをお願いします |
横浜弁護士会の名を汚さぬよう、使命感を持って仕事をしてきたいと思っています。 |
私の任期は三年間ですが、後任者がいないと戻るに戻れなくなるかもしれません。できれば当会の会員、特に勤務弁護士を何年か経験した後の独立前の会員に是非手を上げてほしいと思っています。 |