弁護士の動力源 |
第55期修習生 松平 定之
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弁護修習を通じて、弁護士が最も力を発揮し得るのは、依頼者の怒りを共有できるときではないかと感じている。 |
修習先の事件。ある特殊分野の期間雇用労働者(A)が、勤め先(B社)の責任者からB社内の他部門での次期の雇用が確実であるかのような話をされ、それを信頼して他社との契約交渉を打ち切ったところ、結局雇用しないとの一方的な通知がB社からなされ、信頼を裏切られたAは他社と契約することもできず一年を棒に振り、家族も苦しい生活を強いられた。私は、AのB社に対する怒りを共有できた。そして、そして修習開始以来、自己最高の集中力でその事件の準備書面を起案し、心地よい達成感を味わうことができた。 |
しかし、依頼者の怒りや思いを共有できる事件ばかりではないことも知った。 |
このように依頼者と共に怒ることができないとき、弁護士の動力源となるものは何か。私は、それはお金や知的好奇心ではないかと思っていた。しかし、もっと究極の動力源が存在した。 |
国選、窃盗(ひったくり)、事実関係に争い無し、接見した被告人(二〇歳)の横柄でやる気のない態度、はっきり言って嫌いなタイプ。先生は接見後「かわいい坊やだな。」とおっしゃっていたが。 |
ともあれ、私はその事件の弁論を起案した。被害回復済み、前科なし、両親監督誓約等々、定石に従って、自分なりに一生懸命起案した。しかし、先生は私の起案を利用されなかった。私は不本意に感じたが、先生の起案を見て、それも当然のことと納得した。 |
そのごく一部を引用させていただく。「(前略)被告人の今回の犯行は、少年時の短絡的な犯行態様という色彩が強く、被告人においてまだ成人となりきらない部分が発現したものと考えられる。これは、被告人が社会人としての自覚を持つことにより抑制される…過性のものと考えられる(後略)」文章全体から、事件の本質と被告人の人間性への深い洞察が感じられた。私の起案との差は歴然としていた。能力や経験の他にも何か根本的なものが自分に足りない気がした。 |
そんなある日、先生がふとつぶやいた。「(この仕事は)人間が好きじゃないとできないね。」それを聞いて私は、「自分に足りないと感じたのは、これだ。」と思った。同時に、「これこそが弁護士の究極の動力源かもしれない。」とも思った。 |
人間を好きであること。そこから人間とその行動を見つめ、それらの本質を把握し、人間とその行動を裁こうとする人間を説得し得る表現を生み出す力が生まれるのではないか。 |
自分は人間をどれほど好きか、どれだけ好きになれるか。この点も自分が底力のある弁護士になれるか否かを左右する大きな要素であると感じる。 |
(指導担当 渡邊利之会員)
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横浜法曹スキー同好会の今年のツアーは、二月二八日から三月三日まで北海道ニセコアンヌプリスキー場であった。本来、今年は海外へスキーに行く年であったが、昨年九月のニューヨーク世界貿易センタービル爆破事件のため海外旅行は危ないのではないかとの声があり、希望者の多かった北海道と決まった。 |
羽田空港に午前五時五〇分集合という健康的なスケジュールのため、初日は睡魔との戦いとなった。 |
今年の北海道は暖冬による雪不足でニセコも例外ではなく、二日目までは固く凍ったアイスバーンに苦しめられた。その代わり好天に恵まれ、美しい羊蹄山の姿を目に焼き付けることができた。 |
横山秀雄会員は、今回のスキーのためにカービングスキーという新兵器を準備しており、それを利用してゲレンデを駆けめぐっていた。その威力に驚いたのが大木章八団長で、急遽、古いスキーを捨ててカービングスキーをレンタルし新しい道具に挑戦していた。 |
三日目は吹雪となり、滑るよりもレストハウスに居る時間の方が長い会員もいたようであるが、途中参加の須山園子会員らは宴会後もナイターを楽しんでいた。 |
四日目は前の晩に降り続いた雪がゲレンデを覆い、朝一番のゴンドラで上がった川島清嘉、左部明宏、高島誠会員らだけが新雪にシュプールを描くことができた。 |
今回は、数年前よりも格段に安い費用でスキーツアーに参加することができ、デフレ経済を実感した。欠席となった常連者もいたので寂しい面もあったが、来年はイタリアでのスキーを予定しており、皆さんの幅広い参加をお待ちしています。 |
(安田英二郎) |