2001年5月号(3) |
少年問題委員会委員長 影山 秀人 |
本年四月一日より改正少年法が施行された。新法が適用されることにより、少年審判への検察官関与と国選付添人制度の新設、重大事件についての原則検察官送致、合議制による審判、身柄拘束期間の延長、被害者からの意見聴取や被害者による記録の閲覧・謄写などの新しい制度が適用され、少年事件の実務が様変わりし、少年審判手続や少年事件における付添人活動も大きく変化することになる。 |
一、総論 |
少年法の改正は、昨年一一月二八日、第一五〇回国会において「少年法等の一部を改正する法律」が成立したことによって行われ、本年四月一日から施行となった。 |
今回の改正は、少年に対する厳罰化と被害者への配慮とを特徴とするものであるが、当然、付添人活動の実務にも実務大きな影響を与えるものである。以下、その内容を紹介する。 |
二、主な改正点について |
少年法の主な改正点は、以下の通りである。 |
(1)検察官送致年齢の引き下げ(二〇条一項但書削除) (2)一六歳以上の少年による故意犯の死亡事件における「原則的」検察官送致(二〇条二項) (3)重大否認事件における検察官の関与と国選付添人選任(二二条の二、三) (4)観護措置期間の特別更新(一七条四項但書) (5)裁定合議制(裁判所法三一条の四) (6)被害者等による記録の閲覧・謄写(五条の二) (7)被害者等の意見の聴取(九条の二) (8)被害者等に対する結果の通知(三一条の二) (9)保護者に対する措置(二五条の二) (10)保護処分の取消(二七条の二) (11)検察官による抗告受理申立(三二条の四) (12)死刑と無期刑(五一条) (13)刑の執行(五六条) |
三、検察官送致について |
1、逆送可能年齢の引き下げ |
従来、送致時一六歳未満の少年(一四・一五歳)の検察官送致(いわゆる逆送)は認められていなかった(法二〇条一項但書)が、改正法ではこの但書が削除された。すなわち、改正後は一四及び一五歳(つまり中学生年齢)の少年でも、検察官へ逆送されて成年と同じ公開の刑事裁判を受けることがあり得ることになる。但し、刑の言渡し時に一六歳未満の少年については、刑事裁判で実刑判決を受けた場合でも、一六歳に達するまでの間は少年院で矯正教育を授けながらの刑の執行ができることとされた(一五六条三項)。 |
この改正は、いわゆる厳罰化の一つである。しかし、安易な逆送は許されるべきではないと考える。 |
2、重大事件での原則逆送 |
次の要件に当てはまる事件については、検察官送致が原則となった。 |
(1)故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件(殺人・強盗致死・傷害致死・遺棄致死・監禁致死など。業過致死や殺人未遂は入らない) |
(2)犯行時に少年が一六歳以上の場合 |
但し、家庭裁判所調査官による調査の結果(原則逆送事件でも調査官の調査は十分に行われるとされている)、犯行の動機及び態様、犯行後の状況、少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情を考慮して、刑事処分以外の措置が相当と認められる場合は、この限りでないとされた。 |
すなわち、前記の原則逆送の要件を満たせば、検察官送致の上成年と同じ刑事裁判を受けることが原則となるので、付添人としては右の但書を適用して保護処分で足りると意見を述べるためには、刑事処分が不相当である積極的な理由を十分に主張する必要がある。 |
なお、逆送後は、私選の付添人は弁護人とみなされる。 |
四、少年審判への検察関与 |
1、(1)故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪あるいは死刑又は、無期もしくは短期二年以上の懲役・禁錮に当たる罪で、(2)その非行事実を認定するための審判の手続きに検察官が関与する必要があると認めるときは、家裁は決定で審判に検察官を出席させることができるとされた。 |
すなわち、審判手続きに検察官が関与するのは、主に重大事件でかつ否認事件の場合である。 |
2、審判に検察官が関与する場合、「非行事実の認定に資するため必要な限度で」記録の閲覧・謄写、審判への立ち会い、少年や証人等への発問、意見陳述などが検察官の権限として認められる。 |
具体的には、家庭裁判所は非行事実の証拠調べ(証人尋問等)が終わった後、非行事実の有無についての中間判断を示し、非行事実有りと認定した場合には引き続いて要保護性の判断のための審判を開く(原則として別期日に)。この後半の審判には、検察官の出席が許されないと考えられている。 |
3、検察官関与の決定がなされた場合で、少年に弁護士の付添人がない場合には、家庭裁判所により国選付添人が付される。 |
国選付添人の選任方法は各地の実情に応ずるとされているが、横浜家庭裁判所は、当会の速やかな推薦を要請している。選任された国選付添人は直ちに記録の閲覧・謄写をした上で、裁判所・検察官と進行の打ち合わせをしなければならない。 |
五、観護措置の特別更新 |
少年鑑別所での観護措置期間は、これまでは原則二週間で更新は一回だけ、すなわち最大で四週間であったが、改正法では、(1)死刑・懲役・禁錮に当たる罪の事件で、(2)非行事実の認定に関し証人尋問、鑑定、検証を行うもので、(3)収容しなければ審判に著しい支障が生じる恐れあると認めるに足りる相当の理由ある場合に限り、更に二回まで更新できるようになった。すなわち、少年鑑別所での身柄拘束は最長で八週間にも及ぶこととなった。 |
なお、鑑別所送致決定及び更新決定に対しては異議申立ができ、これに対する判断は、原決定に関与した裁判官を除く合議体で決定がなされる点も、新たに設けられた規定である。 |
六、被害者等への配慮 |
被害者等から申し出などを要件として、被害者等に対して、(1)記録の閲覧・謄写(確定後三年以内)、(2)家裁による意見聴取、(3)決定の要旨等の通知(確定後三年以内)が認められるようになった。 |
七、その他の改正点 |
そのほか、(1)審判に対する検察官からの不服申立権(抗告受理申立権)が認められたこと、(2)保護処分の取消制度が新設されたこと、(3)裁定合議制が導入されたこと、(4)一八歳未満の少年にも無期刑を科しうるようになったこと、などが、実務上重要な改正である。 |
八、今後に向けて |
今回の改正少年法は、従来の保護主義のもとにおける少年の健全育成や更生のための権利を著しく制限する危険があり、私たちも実務家の立場から、その適正な運用に尽力する責任がある。 |
改正法は五年後に再検討が義務付けられており(附則二条)、それまでの間に改正法運用の実態を正しく把握するため、事例や情報の集約が必要である。 |
会員各位のご協力をお願いする次第である。 |
国選弁護手数料値上げ等のため臨時総会の開催を決議 |
今回は、今期二度目の臨時常議員会レポートである。 |
今回の臨時常議員会は、主として、会員が会に納付する国選弁護手数料の増額と国選弁護人推薦停止規定の制定に関する臨時総会開催のためのものである。 |
1号議案が正にこの件に関するものであり、まず臨時総会における議案についての議論がなされた。 |
そのはじめは、国選弁護手数料の増額問題である。理事者の提案は、国選弁護手数料の額までを会規で定めていた従来のやり方の改め、会規で一定の制約を加えた上で、その範囲内においては、国選弁護手数料の額を規則で定めることができるようにしたいというものである。 |
これは、昭和五六年に定められた地・家裁一件三〇〇〇円、簡裁一件二〇〇〇円という額が、今日に至るまで変更されてこなかったように、具体的な金額までを会規で定めていると、手数料改訂の都度、総会を開催しなくてはならなくなり、その結果、柔軟な対応が取れないことを理由としている。 |
これに対しては、国選弁護手数料の問題は会員にとって重要な問題であり、総会で扱うのが当然であるなどの批判意見もあったが、結局、「報酬の支給基準額の一割を標準とする。」という制約を会規上に設けた上、その範囲内では規則で定めることができるとする会規案が承認された。 |
そして、これを前提として、国選弁護手数料を地・家裁一件八〇〇〇円、簡裁一件六〇〇〇円へと増額する規則案が理事者から提案された。 |
これについてもいろんな異論・反論がなされたが、国選弁護手数料が昭和五六年から今日まで増額されないままであること、次年度の予算編成にも苦しむような会財政の逼迫状況などから、最終的には理事者提案通り承認となった。 |
臨時総会の議案の二つ目は、国選弁護人推薦停止制度を設ける問題である。 |
理事者の提案は、裁判所からも問題視されるような国選弁護に関する不祥事が多発していることから、七五歳以上の会員については、予め刑弁センター運営委員会の承認を受けなければ、国選弁護弁護人として推薦されないようにしようというものである。(但し、原則として承認されることになっている。) |
この提案に対しては、多くの反対意見が出され、修正動議も出されたが、総会での議論の必要性も考慮され、結局、承認となった。(但し、年齢は七七歳以上に引き上げられた。) |
その他、二号議案はパート職員採用の件、三号議案は、日弁連・関弁連関係などの人事案件であるが、詳細は省略する。 |
(副議長 瀬古 宜春) |
常議員からズバリひとこと |
初めて常議員になり、議長の議事運営、執行部の対応、諸先輩の発言等に感銘し、若輩者ですが、九割は出席し多少発言させていただきました。弁護士の数が平成五年当時の八倍以上に増えることが決まりました。国民がそこまで弁護士の数が増え、訴訟社会になることを望んでいるとは思えませんが。弁護士会も変化するでしょうが、横弁だけは会員三千人の時代になっても今のよき伝統を守り、真に国民のための弁護士会であってほしいと思います。 |
(齋藤 尚之 45期) |
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