横浜弁護士会新聞

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2001年11月号(2)

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刑事被疑者弁護に償還の活用を
 (財)法律扶助協会神奈川県支部では、年間二〇〇件を超す被疑者弁護の申込みがある(平成一二年度の実績は二四六件、同一三年度は二六五件を予定している)。その申込の中には、これはいかがかと思われるものが時々ある。
 いわく。若干のお金がないではないが、示談金に用いたいので扶助の申込みをする。覚せい剤を買う金はあり、そのために逮捕された者であるが、扶助の申し込みをする。出資法違反で勾留中の貸金業者であるが、扶助の申し込みをする。
 民事事件と同様刑事事件にも資力要件はあるが、迅速な刑事弁護活動をするため、その審査は甘くなっている。民事事件の場合は、資力が少ないことを疎明するため、例えば給与明細書等の提出を要求しているが、刑事事件の場合には、申し込みを代行した弁護士の裁量に委ねられている。
 ところで、民事扶助法の成立により、刑事事件は、各支部の独自事業となった。つまり、二〇〇件を超す刑事被疑事件に対する支出は、神奈川県支部の負担となったのである。同支部の刑事被疑者弁護人援助事業実施要領によると、援助金額は費用及び着手金として一〇万円を原則とする、と定められているから、日弁連等からの補助金一件につき六万円を控除しても(一〇万円−六万円)×二〇〇(件)=八〇〇万円以上の負担となる。それは、前記実施要領で「原則として交付制とし、償還は求めない」とされているからである。
 交付制を原則としたのには、いくつかの理由がある。経済的負担をかけることによって、被疑者が刑事弁護を依頼することを躊躇するのではないか、償還制を導入することによって事務局の負担が増大するのではないか等である。
 しかし、以上の理由も、われわれ担当弁護士(大多数は当番弁護士であろうが)が、今少しの努力をすれば克服可能なものである。接見時において神奈川県支部の実情を話し、「支部に対し立て替えた弁護士費用の全部または一部を可能であれば返してもらいたい」と話し、当該弁護士の方で、回収すればよいのである。勿論交付制にしなければならない事案もあろう、回収が困難な事案もあろう。しかし、仮に二〇〇件のうち半分の一〇〇件について償還できるのであれば、一〇〇〇万円の収入増となり、赤字を補うだけでなく、剰余金については、例えば通訳費用等にあてることが可能となるのである。
 是非とも償還の活用にご協力をいただきたい。
(法律扶助協会神奈川県支部審査員長  山本一行)

ひと 当会から初の任官者
小川直人会員が裁判官に
 横浜法律事務所に所属していた小川直人会員(四八期)が任官し、一〇月一日から東京地方裁判所第九民事部で勤務を始めた。当会会員が任官したのは小川会員が初めて。
―裁判官になることを決意したのは何故ですか?
 私の妻は裁判官ですから転勤があります。保育園に通う二人の子供もいるので、これからも家族一緒に生活していくことを重視しました。また、これまで私としても出来るだけ家事を分担しようとしてきましたが、どうしても妻の方に家事の負担が偏りがちでした。こういう状態をあまり続けるべきではないと思いました。裁判官の仕事に対する興味もありました。
―弁護士の仕事を辞めることについて迷いはありませんでしたか?
 私は、弁護士としての仕事に入れ込んでいました。自分でも弁護士向きだと信じていましたから、最初に任官の話があった時も、裁判官になる訳ないと思っていたくらいです。随分と悩み逡巡した上での選択です。
―弁護士としての事件はどう処理したのですか?
 辞める一年位前から新件は取らないようにし、どうしても引き受けなければならない時は、同僚弁護士との共同受任として後を引き継いでいただく準備をしてきました。最終的には一人だけで受けていた事件が三件残りましたが、それも同僚弁護士に引き受けていただきました。
―経済的な面で不安はありませんでしたか?
 裁判官になってからの収入面の不安はありませんでした。むしろ辞める直前に仕事を減らしていく時が心配でしたが、トントン位の収支で終えることができました。
―裁判官の仕事の感想は?
 もともと良くも悪くも弁護士タイプと思っていましたので、裁判官に向いているのだろうかという不安はありました。
 しかし、現在では新しい知識を得、今までになかった経験をし、弁護士の時とは違った立場から事件を見ることができるので、毎日が非常に新鮮です。弁護士の時は毎日同じ裁判所に居ることなんて耐えられないと思っていましたが、苦痛には感じません。
―所属している裁判所の印象を教えて下さい?
 東京地裁民事第九部は保全部ですが、若い裁判官がたくさんいて、言わば大部屋です。皆さんフランクで、色々なことを気軽に相談できる非常にいい環境です。
―裁判官になって生活が変わった点はありますか?
 以前は、子供が起きている時に帰宅することはほとんどなかったのですが、子供と一緒に夕食をとれるようになりました。保育園に子供を迎えに行くこともあります。それからあまりお金を使わなくなりました。
―横浜弁護士会会員に向けて一言お願いいたします。
 私は修習生として、また、委員会活動や事件を通じてたくさんの先輩方や同期、所属事務所の同僚弁護士のお世話になってきました。本当にありがたいと思っています。
 私は所属事務所の全面的なバックアップを受けていたので、スムーズに裁判官になることができました。
 しかし、大きな事務所ばかりではありませんので、もっと任官者を増やすためには、弁護士会が任官希望者をバックアップする体制が不可欠だと思います。
 任官したばかりのフレッシュな感想をお聞きしました。
(インタビュアー 安田英二郎)

「破産・民事再生の現状と問題点」研修会
制度の理解・積極的な活用を
 九月二一日、当会館五階大会議室において、横浜地方裁判所田中治裁判官の講義が行われた。満席になるほどの多数の会員が参加し、関心の高さがうかがわれた。田中裁判官の分かりやすくテンポの良い解説に、会場は終始和やかな雰囲気に包まれていた。
 民事再生法に関するこれまでの研修とは異なり、すでに法律の知識があることを前提に、運用上の問題点、注意点が解説された。平成一二年四月から同一三年九月五日までに横浜地裁に申し立てられた通常再生事件は四一件で、うち当会会員が代理人となったのは二三件であり、より積極的な利用が望まれる。破産と異なるのは、申立代理人が再生計画の履行の確保まで関わることであり、申立から約四年は関与する覚悟が必要である。
 個人再生は、本年四月から八月末までに小規模再生一九件、給与再生四五件の申立があり、それぞれ二件が認可に至っている。代理人の不慣れさが散見され、債務額を正確に把握し、小規模再生・給与再生のいずれを選択するか、適正な判断が要求される。
 川崎支部で行われている少額予納金の管財事件の本庁での導入が検討されており、実現すると、法人の同時廃止は無くなる見込みである。
(市川統子)

当番弁護士制度一〇周年講演記念
争う権利を認めよ
 平成三年に当会が当番弁護士制度を導入してから一〇年になるため、九月一四日、当会会館五階で渡辺脩弁護士を講師に迎え記念講演が行われた。
 須須木会長による開講の挨拶の後、当番弁護士制度の一〇年間の歩みが報告された。
 講師である渡辺脩弁護士は、社会的に強い非難をあびている某宗教団体教祖の弁護人として活躍されているが、その体験に関する貴重な講演であった。
 被告人に対する強い非難は、その弁護人に対しても向けられる。迅速な裁判を要求して弁護人を批判するマスコミの報道は、争う権利を認めず裁判という形式でリンチを行なえというに等しい。
 問題の根本は、被告人に争う権利を認めるかどうかということである。司法改革の一つとして裁判員制度が主張されているが、導入のためにはこのようなマスコミの影響から完全に遮断された裁判員を選任することが不可欠である。
 重大事件の弁護は刑事訴訟の根本に関わる問題を我々弁護士全員に提起しているようである。
(安田英二郎)

横浜刑務所での運動会に会長が参加
ここにも国際化の波が
 一〇月五日、横浜刑務所で被収容者の運動会が開催され、須須木永一会長も来賓として出席した。
 運動会は、刑務所内の工場毎に一チーム、小さな工場のときは連合チームを作り優勝を競う。一〇〇メートル走、二人三脚、百足競争、六〇〇メートルリレーなどの種目で得点を争う他、応援演技も応援審査の対象となる。被収容者にとって心身ともにリフレッシュし、協調性を養う場となっている。
 国際化の影響か、刑務所に多数の外国人が収容されているため、競技の進行などは、日本語、英語、中国語と三か国語でアナウンスされ、外国人と日本人が並んでゴールを切る光景は、さながら小さなオリンピックの様であった。
 会長は、来賓ゲームであるスプーンレースに出場し、途中まで一位を競っていたものの、ゴール間際に落球し若手参加者に一位を奪われる結果となった。
(安田英二郎)
受刑者のみなさんにエールを送ります
−会長談話−
 初めて見学しました。
 受刑者の誰もが、のびのびと無心に競技に取り組んでいた姿が印象的でした。社会復帰してから、様々な困難に立ち向かわなければならないと思いますが、この日の純粋な気持ちを忘れずに頑張って欲しいとエールを送りたいと思います。
スプーンレース勝ちたかった!


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