横浜弁護士会新聞

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2001年2月号(1)

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司法改革推進委員会副委員長 高岡俊之  
 昨年一一月に行なわれた日弁連臨時総会決議及び司法制度改革審議会の中間報告を経て、法科大学院の設置・運営が急速に具体化してゆくなか、当会も横浜国立大学大学院国際経済法学系との間で、法科大学院の設置に向けて協議を始めた。これまでなされた協議の成果・到達点を公表し、広く内外に議論を喚起するため、横浜国立大学主催のもと、当会が協賛する形で、去る一月一四日、「横浜における新しい地域連携型法科大学院」と題して、ランドマークタワー一三階「フォーラムよこはま」にて、公開シンポジウムが行われた。当日、NHKニュースでも取り上げられ、マスコミ各社が取材に訪れたことは、周知のとおりである。
 ここに、シンポジウムの内容を報告する。
 シンポジウムは、第一部から第三部までの三部構成で行われた。 〔第一部〕横浜国立大学教授來生新氏が地域連携型法科大学院構想を説明した。同大学には、法学部がなく、開かれた大学院がある点が、地域連携型法科大学院においては、大変な魅力となることが説明された。
 次に、当会サイドで法科大学院に対して、いかなる取り組み方をして行くのかについて、当会司法改革推進委員会の藤村耕造委員長がその基本的な視点を展開し、法科大学院に関する当会のアンケート結果にもとづき、条件次第では、当会としても、相当数の教員の供給が可能であることを報告した。
 さらに、これまでの双方の協議経過を踏まえ、法科大学院におけるカリキュラムとはいかなる形を取るのかについて、同大学教授田中利幸氏から、入学者の選抜法・基本理念・その具体化について、発表があった。
〔第二部〕パネリストを招き、「求められる法科大学院」をめぐり、白熱した討論がなされた。
 早稲田大学教授加藤哲夫氏から、横浜国大と当会との連携について、ユニークさにおいて、実現を大いに期待しているとのエールが送られ、神奈川県立外語短期大学学長齋藤荘之助氏からも、行政官としての長年の経験から、国際化、地方自治の徹底の観点から、同じく大変な期待を嘱望された。
 さらに、元司法研修所教官である川島清嘉会員からは、実務教員の質の確保の重要性が力説された。
 一方、地裁判事、地検検事からは、現在の司法行政を前提にした場合の法科大学院の実現について、悲観的であるとの意見が述べられたが、地域連携型法科大学院を真に実現させるための問題点を深める意味で大変に示唆に富むものであった。
〔第三部〕会場との質疑応答が行われ、各大学関係者、地方単位会からの質問を契機に歯に衣着せぬ議論が行われ、あっと言う間の六時間であった。
 法科大学院の実現については、当会でも議論がはじまったばかりであるが、東京集中型法科大学院と対比して、当会が地域密着型の法曹養成制度に主導的に参画してゆく意義は大きい。
 委員会の垣根を越えた当会会員の積極的な参加を期待する。


 昨年一二月一二日午後六時から、関内ホールにて、第二七回県民集会が開催された。第一部は人権賞の贈呈式である。第五回目の栄えある人権賞を受賞したのは、寿支援交流会と「私たちの憲法劇『がんばれ!日本国憲法』上演実行委員会」の二団体であった。寿支援交流会は、代表者によると「いわゆるドヤ街と言われる町の内と外をつなぐ緩やかなネットワークであり、主に寿町・横浜駅を中心とするパトロールや医療とのつなぎ役、生活保護申請手続きの手助け等をしている団体」である。さらに代表者は、受賞の挨拶で「野宿生活者というだけで差別されている社会に対する問題点を取り上げ、一人一人のふれあいによって少しづつ変われるのではないかと問い続けている」と述べ、その活動に対する熱き情熱がひしひしと伝わってきた。また「私たちの憲法劇『がんばれ!日本国憲法』上演実行委員会」は、一九八七年以来、憲法問題を具体的な事件を通じてわかりやすいミュージカル仕立てに脚色し、その手作り演劇を公演してきた団体である。
 憲法劇にはあの坂本堤会員も役者として参加したことがあるとのことで、代表者は「この賞の基金の中には坂本さんのご遺族の寄付も含まれていると聞きました。この受賞をバネに新たに頑張っていきたいと思います」と受賞の喜びを語った。
 第二部は、「二一世紀の弁護士・あなたは何を期待しますか」というタイトルで司法改革の中での弁護士のあり方を取り上げた。昨年の県民集会も司法改革をテーマとして裁判官及び裁判所の現状と問題点などを取り上げたが、今年も引き続いて司法改革シリーズの第二段というところである。
 最初に「弁護士ドンちゃんの長〜い一日」と題するビデオが上映された。一人の若手弁護士の一日を再現したもので、阿部泰典会員が牛丼をほおばりながら仕事に追われる弁護士ドンちゃんを熱演していた。
 次ぎに、自由公募に応じた三人の県民の方から二一世紀の弁護士になにを期待するかについての意見が披露されたあと、パネルディスカッションが行われた。パネリストは神奈川新聞報道部長大胡文夫氏、作家の佐木隆三氏、早稲田大学法学部教授須網隆夫氏、山田幸彦日弁連副会長、高橋理一郎当会業務対策委員会委員長であった。
 大胡氏は、ジャーナリストとして日弁連人権大会で採択された人権擁護のための救済機関の構想について、報道の自由・表現の自由に対する制約になる危険性についての見解、佐木氏はオウム真理教松本智津夫被告人の国選弁護人が裁判を長期化させていることに対する批判、須網氏は司法改革について法曹一元とロースクールの観点からの展望について、それぞれ意見を述べた。また山田氏・高橋会員はそれぞれの立場から現状や弁護士に対する疑問について答えた。
 弁護士会が自らの弁護士像を県民と共に考えるという今回のテーマは、弁護士として自分をどれだけ等身大に評価し、かつ問題点を明らかにしていくかという観点からすると大変難しい課題であった。県民やパネリストからの様々な批判や疑問に素直に耳を傾けるという試みをしたという点では今回の集会は評価できる。
 他方、弁護士が極悪犯人を弁護することは犯罪に準じる行為であるとか、日弁連が国選弁護人を罷免すべきであるというような、刑事訴訟に対する誤解に基づく発言については弁護士会は勇気を持ってその誤解を解く努力が必要だったのではないだろうか。県民・市民からの批判を真摯に受け止めると共に、疑問に答え、誤解をただすということが、司法改革を考える上で、今後の集会及び弁護士会の課題になると思われる。

山ゆり
 冬の夜の伴侶といえば、何はさておきミステリーである
暖炉の火が赤々と燃える居心地の良い居間で、安楽椅子に身を沈め、というのが理想だが、狭いアパートの部屋で、布団にくるまって読んでも、面白いものはやはり面白い
「ミステリー」という言葉は、今でこそ普通に使われているが、二〇年ほど前の学生時代、初対面の人に「ミステリー研究会に所属してます」などと言おうものなら、怪しいグループの一員と見られるのがおちだった
ミステリーが今やベストセラー・リストの常連となったのと対照的に、SFは相変わらず一部マニアの読み物の感がある。「SF」というレッテルが貼られるだけで本が売れなくなるという話も聞いた
SFというと、「空想科学小説」という訳語のイメージもあって、理数科が苦手な者にはどうしても気後れしてしまう。だが、SFの本質は、むしろ現実という既成の枠にとらわれない条件設定と、想像力に支えられた展開にある
優れた想像力の持ち主が書いた文章を読んで楽しむためには、読み手にも相当の想像力が要求される。自分の想像力がどのくらいのものであるか試すには、SFはもってこいである
古典的SFでは近未来の象徴であった「二一世紀」を、今や私たちはリアルタイムで生きている。昔に書かれたSFがどれだけ現在を予言できたかなどという後ろ向きの話はどうでもよい。これからの人間や社会や自然を考えるために、もっとSFは読まれていいのではないか
冬の夜の伴侶として、SFもなかなか捨てがたい。
(中村俊規) 


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