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会長声明・決議・意見書(2019年度)

検事長の定年延長をした閣議決定に強く抗議し撤回を求め、 国家公務員法等の一部を改正する法律案中の検察庁法改正案に反対する会長声明

2020年03月27日更新

  1. 政府は、本年1月31日の閣議において、定年延長について定める国家公務員法81条の3の規定を根拠にして、黒川弘務東京高等検察庁検事長の定年延長を決定した(以下「本件閣議決定」という。)。
    そして、政府は本年通常国会において、検察官には国家公務員法81条の2に規定されている定年の適用はないが、同法81条の3による勤務延長の規定は適用されるとして、上記閣議決定は適法である旨答弁した。加えて、これまでの公権解釈では検察官は定年延長ができないとされてきたことを認めたうえで、法解釈を変更したと説明した。
  2. しかしながら、検察庁法22条は、検察官の職務と責任の特殊性に基づき、国家公務員の身分や職務に関する一般法である国家公務員法の「特例」として検察官の定年退官を63歳と定めているのであり(検察庁法32条の2)、定年退職を定めた国家公務員法81条の2及び同条を前提にする同法81条の3第1項が検察官に適用される余地はない。
    実際に、現在の検察官定年制度は遵守され、例外なく運用されてきた。本件閣議決定は検察庁法に違背する。
  3. そもそも、検察官が一般の国家公務員とは異なる法律によって規律されるのは、検察官は刑事事件の捜査・起訴等の権限が付与され、準司法作用を執り行うものであるから、政治からの高度の独立性と中立性の確保が要請されるためである。
    すなわち、検察官は行政官ではあるものの、刑事事件の捜査・起訴等の検察権を行使する権限を持ち、他の行政機関に対してもその権限を行使する場合がある。そのために、検察官は独任制の機関とされ、身分保障が与えられているのである。
    にもかかわらず、政府が恣意的な法律解釈をすることで、検察の人事に干渉することを認めてしまっては、その職責を果たすことができるのかについて重大な疑念が生じる。
    その上、国家公務員法81条の3が検察官に適用されるという法解釈の変更について、政府による納得のいく具体的必要性についての説明はされていない。 かように、政府による恣意的な本件閣議決定は、法治主義の理念に違反しているばかりか、検察官及び検察組織の政権からの独立を侵すものであり、憲法の基本原理である三権分立に抵触することは明らかである。また、不偏不党であるべき検察権の行使に対する国民の信頼を大きく揺るがすものであって到底容認できない。
  4. さらに重大な問題は、政府が本年3月13日に通常国会に提出した、国家公務員法等の一部を改正する法律案中の検察庁法改正案である。そこにおいては、上記のような検察官の勤務の延長の人事を、さらに拡大して恒常的に可能とすることが提案されているのである。
    すなわち、改正案は、すべての検察官の定年を現行の63歳から65歳に引き上げた上で、63歳に達した次長検事及び検事長にはいわゆる役職定年制が適用されるが、内閣が、「職務の遂行上の特別の事情を勘案し」「公務の運営に著しい支障が生ずる」と認めるときは、その後も当該官職で勤務させることができるものとし、さらに、検事総長、次長検事及び検事長が65歳の定年に達した場合にも、同様の事由により当該職務に従事させるため引き続き勤務させることができるものとし、これらの更新も可能とする(改正案22条1項・2項・4ないし6項))。そして検事正及び上席検察官についても、法務大臣において同様の措置をとることができるようにしている(改正案9条3項・4項、10条2項)。なお改正案は、検事及び副検事の定年に伴う特例措置一般をも規定する(22条3項)。
  5. これらは、前記の黒川検事長の定年を延長して検事長の職を続けさせるという閣議決定と従来の検察庁法及び国家公務員法の解釈の変更を、法律上制度化してしまおうとするものであり、同様の措置を検事総長、検事長、検事正その他の主要人事にまで及ぼし、さらには検察官一般に、国家公務員法の定年延長規定を押し及ぼそうとするものである。
    かくては、検察官の人事は、内閣及び法務大臣の掌中に委ねられ、その独立性も中立性・公正性も根本から損なわれることになる。この法律改正は、検察官の準司法作用、とりわけ権力に対する刑事司法の独立性を失わせ、三権分立と法治主義を根底から揺るがすものである。
  6. 以上の理由により、当会は検察官と同じ法曹として、政府に対し、検察官の独立性を維持し憲法の基本原理である三権分立の原則を堅持し法治主義を守るために、本件閣議決定に強く抗議しその撤回を求めるとともに、国家公務員法等の一部を改正する法律案中の検察官の定年ないし勤務延長に係る特例措置の部分に反対するものである。

 

2020年3月26日 

神奈川県弁護士会  

会 長  伊藤 信吾

 

 
 
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