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イベント情報(2023年度)

憲法問題シンポジウム「戦争ではなく平和の準備を」

2023年08月03日更新

開催結果報告

9月15日、当会会館において、沖縄県平和委員会の大久保康裕氏による「南西諸島の自衛隊増強と米軍との一体化の実態について」と題する報告、続いて、学習院大学の青井未帆教授(憲法学)による「戦争ではなく平和の準備を」と題する講演が開催された。
   今回の講演会は、憲法問題対策本部が、本年7月の長谷部恭男東京大学名誉教授による講演「憲法9条の現在と立憲主義」に続く連続講演会として当会憲法問題対策本部が企画したものである。一部の概要になりますが、以下、報告します。

まず、大久保氏による報告が行われた。大久保氏は、次のとおり、南西諸島の自衛隊増強と米軍との一体化の実態を報告した。
   「直近の日米軍事一体化の拠り所は、"対テロ戦争"から"中国による現状変更、海洋進出"へと変化しているが、対中戦略における米国の基本姿勢は、"中国領域に踏み込まずに沿岸で封じ込めつつ、同盟国に戦力を肩代わりさせ、米本土は無傷にする"というものであり、安部内閣による集団的自衛権容認の閣議決定後、島を攻撃・補給の前進基地とする米国の『遠征前方基地作戦』に沿って、海兵隊と自衛隊による共同訓練や、"第一列島線"に沿った自衛隊の地対艦ミサイル等の基地配備が進行している。」
   「安保3文書の閣議決定にあるスタンド・オフ・ミサイルの配備先は明かされていないが、『基地があるところ』であるので、どこであるかは予測できる。米国の代わりに日本が中国を攻撃する事態となってしまう危険がある。」
   「『統合防空ミサイル防衛』では相手を監視する能力を米国に頼るため、日本は独自に指揮が執れないという問題がある。」
   「(改正された自衛隊法の95条の2に基づき)自衛隊機による米爆撃機の護衛訓練が繰り返されている。台湾有事の際に集団的自衛権に基づき自衛隊が参戦した場合、台湾、沖縄、さらに本土が(戦場となり)荒野になってしまうのではないか。」
   (大久保康裕氏)

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続いて、青井未帆教授による講演が行われた。
   青井教授は、冒頭、大久保氏の報告にも触れ、「政府が(解決済みとして)憲法論をしなくなり、いつの間にか『仕方ない』という"空気"が醸成されており、これとどう闘っていくのか知恵を絞らなければいけない」と述べ、昨年末、国会の閉会後に、5年間で43兆円という大軍拡を行う内容の安保3文書を閣議決定で行うという政府の国会軽視の姿勢を批判した上で、次のとおり、述べた。
   (青井未帆教授)

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「今後は、成立した"戦略"が執行されていく段階になるので、いよいよ憲法論がされなくなる。だからこそ我々が憲法論をしなければいけない。」
   「安保3文書の最上位にある『国家安全保障戦略』が、今後、文化のレベルで日本社会を変えていく影響を持つことを案じる。私達が意識しないと、法や制度の背後にある文化がいつの間にか変わってしまう。即ち、政府は"変わらない風"を装いながら、軍事による国益確保が当たり前のような状況にしようとしているが、"軍事力が無かったら外交は始まらない"というようなことはこれまでなかったはず。憲法、立憲主義の観点から(現在は)大きな転換点であり、この転換について政府は国民への説明が不足しているが、それは、逆に、政府は"説明できない"ということではないか。」
   「特定秘密保護法、国家安全保障会議設置法に先だって、2013年に当時の安部政権が慣例に反して、意に沿う内閣法制局長官人事を行い、その後、2014年に集団的自衛権を容認する閣議決定、2015年に安全保障法制の国会での採決と続き、2022年末にいたって、これらを総合した安保3文書が閣議決定された。
   現状、政府は正面からもはや憲法論をしないという姿勢をとり、"憲法論をすることを嗤いものにしようとするような雰囲気、空気"が醸成されつつある。」
   「政府は、既存の政策との継続性、従来の解釈枠組みとの整合性を標榜しているので、これを逆手にとり、"憲法の立脚点からは本来説明し得ない"ということを言うべきである。
   2014年の集団的自衛権を容認した閣議決定と翌年の安全保障法制は違憲であり、時間が経過すればその違憲性が治癒されるというものではない。外国に対する武力攻撃まで(我が国に対する武力攻撃ではないにも拘わらず)、限定的であれ、実力をもって阻止することができるとすれば、憲法9条が武力の行使を禁止している意味がなく なるが、これは説明のしようがないはず。平和主義や専守防衛といった言葉を使ってこ れを説明することは正しい政治の慣行ではない。」
   「憲法9条は自由を守るためのいわば"防火壁"の役目を果たしており、実際の政府権力の統制は、政府の有権解釈の維持に関わる内閣法制局や防衛官僚の果たす役割が極めて大きかった。しかし、現在はその役割を果たすべき文民政治家が無関心であり、また、幹部自衛官の忠誠の対象が真に日本に向けられているのかが問われるような状況がある。」
   「砂川事件最高裁大法廷判決は、憲法9条及び憲法前文等を引用する形で、日本国民が平和主義を決め、それにより政府の行為を限定していることを前提にしている。憲法9条等で言っていることは、要するに『軍事の否定』であり『軍事的合理性への人権の優越である』が、しかし、安保3文書は、政府が『国益を軍事力を背景に確保する』ということを赤裸々にいうようになってしまった。」
   「このようなことが閣議決定という内閣限りの文書でなされ、憲法が上書きされるのはおかしいのではないか。実際にも、政府自身が外務省ホームページで平和国家としてのファクトとして挙げている『専守防衛として防衛費対GNP1%枠』などの事項が、少しずつ説明がないまま、変えられている。」
   「この変化を起こしている実態は、政府の憲法解釈論が妥当性を確保し得ていない以上、内閣の総合的判断で行われているものであるが、『日米が限り無く整合的に一体化する』ということなので、内閣の判断は、真に内閣の判断なのか。真に決めているのは誰なのか。」
   「2017年の朝鮮半島危機に関し、『(この時、安保法制における存立危機事態等について)国家安全保障会議において議論が為されたが、最終的には米国次第であった』ということが行政文書開示請求により明らかになっている。9条があるにも関わらず米国次第で判断される法制度になっている。」

さらに、青井教授は、以下のとおり、地方自治体の問題にも触れて講演した。
   「法制度上、国民(住民)を守る職掌にあるのは、自衛隊ではなく警察・消防、即ち地方自治体であるところ、政府は、当該地域の住民の避難が完了していることを前提に防衛行動を議論しているが、そもそも、地方自治体への特定秘密の提供は前記法律により認められず、国会も当該情報へのアクセスが困難な状況下、地方自治体が、他国からの武力攻撃に十分先立って国民(住民)を避難させることに係る情報を得ることが果たしてできるのか。
「現時点で、我が国の内閣の判断の妥当性、正当性を確認する仕組みが不在であり、また、特定秘密保護法により国民の避難等に必要な機微に関する情報が、最後まで地方自治体等に分からないことが想定されるが、国民の生命確保の観点から仕組みを見直すべ きである。」

講演終盤に改めて、青井教授は次のように述べた。
   「国家安全保障戦略では、『国家としての力の発揮は国民の決意から始まる』『国民が我が国の安全保障政策に自発的かつ主体的に参画できる環境を政府が整えることが不可欠』との記載があるが、旧明治憲法下で軍隊をつくっていった過去を思い起こすべきである。 (存立危機事態等の判断が)軍事的合理性の見地から他国がなす判断に最終的には委ねられるような状況に鑑みると、私達の人権に対する考慮が払われないような仕組みになっているということを我々は知るべきである。」
   「安保3文書が想定する事態では国民に多大な被害が生じると思われるのにそれが説明されていないのは、同盟国間の軍事的合理性だけを考慮しているからであると思われる。しかし、『同盟』という概念は、敵を想定して国際政治を観念するということであり、本来は、『同盟』という概念自体、国連の集団安全保障体制とも、憲法9条の構想とも、相容れないものである。
   国家安全保障にとって個人の人権はどうしても小さく見積もられるので、樋口陽一先生(東京大学名誉教授)がいう『自由の下支えとしての憲法9条』という言葉を改めて重く感じている。政府の憲法9条解釈はともかく、私達の平和構想力は無限大であり、市民による補強が重要である。」
   「『文民政治家は、"国民の暮らしを守る"といった抽象的説明ではなく、その先の説明責任を国民に対して負っていることを自覚すべきこと』
   『憲法を軽んじてはいけないこと』
   『法は、単なる道具ではないのであり、それによって正しさを追求するべきものであるべきこと』
   『戦争は絶対に起こしてはならないこと』、
   これらを言い続けなければいけない世の中になってしまった。
   もし市民の中に憲法を嗤うような空気が出来ているとすれば、それは、憲法や立憲主義にとって最大の危機である。」

最後に、青井教授は、「国家安全保障を超えて、国家ではなく、安全保障を各国の市民が共通の人権問題として捉え、各国の市民が参画する多国間の安全保障への期待」を訴え、教授もメンバーのお一人である「平和構想提言会議」が2022年12月15日に発表した、国家安全保障戦略に対置する「戦争ではなく平和の準備を」と題した提言書を紹介し、講演を締めくくった。
   大久保氏の現地からの貴重な現状のご報告、それとも関連した青井教授による特定秘密保護法や集団的自衛権容認から安保3文書へ続く一連の流れがはらむ日本の社会への深刻な影響の分析、これらを踏まえて私達はどう向き合っていくべきなのか、多くの示唆をいただいた報告・講演会であった。
   (憲法問題対策本部委員 中尾 繁行)

 

日  時 2023年9月15日(金) 18:30~20:30(開場 18:00)
講  師

青井 未帆 さん
学習院大学法科大学院教授

研究テーマは憲法上の権利の司法的救済、憲法9条論。

会  場 神奈川県弁護士会館
WEB同時配信
参加方法

【会場でのご参加】

会場参加希望の方は当日直接会場へお越しください。(事前申込不要 定員100名先着順)

【WEBでのご参加】

WEBでの参加希望の方は下記URLからお申し込み下さい。

https://us06web.zoom.us/webinar/register/WN_znRFWgZTSFG8-vJ-2U2-uA

お申し込みいただいた方に、視聴用URLをお届けいたします。

オンラインでご参加いただくために、あらかじめパソコンやスマートフォンにZoomを設定して下さい。

参加費 無料
主  催 神奈川県弁護士会
共催(予定) 日本弁護士連合会・関東弁護士会連合会
お問い合わせ先

神奈川県弁護士会
TEL:045-211-7705 (平日9:00~12:00、13:00~17:00)
FAX:045-212-7718

 

 
 
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